JOURNAL

NARI

後編

繋がりを辿って実現した映画の仕事

肩の力が抜けるような心地よい空気感、そして思わずクスッとなる日常の何気ないシーンを切り取ったイラストで人気のNARI(LITTLE FUNNY FACE)さん。その作品のモチーフには輪郭線がなく、目鼻立ちも分からないが、登場人物たちのヒューマニティーが溢れ出ている。ここでは前編に続き、そんなイラストレーター・NARIさんの魅力をさらに掘り下げていく。

「2021年2月公開となった、映画『ファーストラヴ』に向けてイラストを描き下ろしました。いつか大好きな映画に携わるお仕事がしてみたかったので、こんな素敵なお話を頂けた時はとても嬉しかったです」

実は、このグッズのオファーがあったのも、湘南に住む昔ながらの友人を介してだったという。地元の繋がりが、NARIさんの夢のひとつを実現させてくれた。以前、この「JOURNAL」でも、インタビューを掲載した「JAMZ CUSTOM MADE」の石原卓也さんも、NARIさんの大切な湘南の仲間の一人である。

※バックナンバー参照(https://organcraft.com/journal/takuya-ishihara-1

NARIさん曰く「皆でそれぞれの活動を応援しあったり手助けをしたり、深く強い絆で、これからもずっとそんな関係が続いていく仲間だと思う」と。

物語が染み込んだモノの鼓動を感じながら

自然光がたっぷりと差し込む吹き抜けのあるギャラリー兼自宅は、NARIさんの作品に加え、ヴィンテージの家具や雑貨、洋書などが随所に配されている。素敵なアートを引き立てる味わい深いウッド調のインテリアが演出する心地よい空間。それは、まるでリゾート地にある気の利いたコテージを思わせる。

「海外の人たちは古いものを長く大切に使う傾向があります。賃貸物件でも、前の住人が残した家具をそのまま使っていたり、家の外観もすごく年季が入って味があるものだったり。それがごく普通で、良いものを長く継承するスタイル。私も色々な人を渡ってきた古い物が好き。

そして、そんなモノに宿るストーリーも好きです。このギャラリー兼自宅の中にも、様々な場所で買ったものが入り混じっています。本や花瓶、スノードームなど。中には、道で拾ってきたモノもあります(笑)」

そう言ってNARIさんはヴィンテージ感のあるチェアを指差した。

ギャラリー兼自宅を作る時には、無意識にポートランドの友達の家を意識したというNARIさん。「叶うことなら、ずっとポートランドにいたかったくらい」。そんな思いが、このスペースの中に広がっている。

「作業場と自宅を一緒にしたことでオン・オフの切り替えが難しいのでは?」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

「確かに仕事とプライベートの差があまりないのですが、例えば新しい絵を描いても、以前の部屋はもちろんギャラリーがない環境だったので、ある期間温存している状態は続き、完成した作品は個展があるタイミングでしか表に出せない。でも今は作品が完成して、お客さんに見て欲しくなったら、すぐにギャラリーの壁に飾ることができます」

そんな衝動に駆られて、NARIさんのプライベートギャラリーが形成されている。新しい作品が加わるたびに、訪れたお客さんの笑顔も増えていく。

「湘南に作ったこのギャラリー兼自宅は、今とても気に入っています。ただ、このままずっとここにいるかというと、実はそう考えてはいなくて。いつか日本を飛び出して、海外で活動していきたいと思っています」

 

言葉にできない気持ちを絵に託して

「言葉で気持ちを表現するのがあまり得意じゃない」というNARIさん。「自分が感じたことがある、目に見えない感覚が絵のモチーフ」とも。言葉にできない心地よさだったり、愛しさだったり、または憎しみや悲しみだったり。NARIさんのそんな感情が作品となっているようだ。

「絵を描くということは、私にとってすごくピュアな行為。今まで一度も苦痛に思ったことがありません。元々洋服が大好きで、かつて服飾メーカーに勤務していた頃、好きでやり始めた仕事のはずなのに、忙しくなるにつれ、次第に楽しむ気持ちを忘れかけていました。

でも、絵を描くことはどんな時間でも、どんなコンディションでも常に楽しくて。ずっと描き続けていても、いつでも『楽しい』と思えます。自分でも不思議ですが(笑)」

ドラマチックでもなければ、ロマンチックでもない。誰にでもある普通の日常。そんな日々のフトした1シーンに、何ともいえない魅力的なドラマがある。NARIさんの作品たちに包まれているとそんな何気ない瞬間の大切さに気づかせてくれる。今後も、NARIさんが生み出していくキュートで愛しい作品が楽しみで仕方ない。

 

INTERVIEW:Daisuke Udagawa(M-3)
TEXT: Yumiko Fukuda(M-3)
PHOTO:Fumihiko Ikemoto

NARI

https://nari.format.com

1990年湘南出身。目鼻を除き、唇を描き込む独特のスタイルと異国情緒溢れる色彩、タッチが印象的なアーティスト。ちょっぴりルーズな生活感や、人間性を包み隠さず表現した作品は、多くのファンから共感を集める。作中に様々な国籍の人々が登場するのは、平和と平等を願う気持ちから。自身のギャラリーショップを湘南に構えるとともに、国内外での個展開催、GUやMURUAといったアパレルブランドとのコラボレーションなど、精力的に活動中。

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