紐と流木から生まれるクラフト作品
1970年代に日本でも流行した「マクラメ」が、アートやクラフトの文脈で再び注目を集めている。日本の伝統文化を取り入れ、現代流にマクラメを解釈する、アーティストが小野さんだ。マクラメの魅力とは? そもそもマクラメって何だ? 注目を集めるシーンを支える気鋭作家のこだわりに触れる。
あなたは「マクラメ」を知っているだろうか?
そう聞かれて正確にマクラメの姿をイメージできるなら、あなたは人一倍カルチャーの動向に鼻の利くタイプか、あるいは1970年代のヒッピー文化に洗礼を受けた遊び人か、そのどちらかだろう。
マクラメというのは、紐状のものを結んで模様や形を生み出す技法のこと。ルーツを辿れば古代中東のラクダの紐装飾に行き着くとも言われ、1970年代にはボヘミアンやヒッピー文化を背景に、日本でもファッションやインテリアの装飾としてブームになった。そんなマクラメが、この数年アメリカ西海岸からアートやクラフトの文脈で再び注目を集めている。その波が、日本のシーンにも伝わりはじめているのだ。
マクラメ第2ブームを担うWood & Knot.
マクラメ第2ブームともいえる現在シーンの一翼を担うのが、小野正史さんが手がけるウォールハンギングブランド<Wood & Knot.(ウッドアンドノット)>。独自の解釈によるマクラメ作品はすべてハンドメイドの1点モノ。流木を使った大胆かつ繊細なデザインと不思議な造形が、ファッションやインテリア界隈を中心に人気を集めている。
とはいえ、小野さんの作品を手に入れるのは、ちょっと難しい。通販もなければwebサイトすらないからだ。確実なのは横浜のビームスプラネッツで年に2回開かれるWood & Knot.の展示販売を待つこと。ときおり開催される小野さんのワークショップに参加するか、SNSから直接コンタクトを取る手もある。あるいはボタニカルブランドThe Landscapersのwebならコラボ作品のプラントハンガーが手に入るかもしれないし、鎌倉駅前のダンデライオンチョコレートに行けば、内装として作品を見ることができる。
「営業もしないし、ホームページも作らない。販路はほぼ友人繋がりです。知り合いとその一歩先の範囲で、作品を通して人とつながるのが楽しいんですよね。そもそもマニアックなものだし、不特定多数に受け入れられるとは思わないですし。商業的に広げようとすると、多分つまらなくなってしまうから」
そう話す小野さんの本業はセレクトショップ勤務。マクラメ作家という肩書はあくまで副業だという。かなりの長身で髭面。話せばおおらかな人柄が伝わるけれど、黙っているとけっこうな迫力がある。失礼ながら、こんなに繊細な作品を生み出す人には見えない。どうしてマクラメを作り始めたのだろう?
ロサンゼルスから火がついた経由のマクラメ見様見真似で
「きっかけは6年ほど前に見つけた1枚の写真でした。サンフランシスコにある<ジェネラルストア>というセレクトショップが気になって、Instagramをフォローしていたんです。そうしたら、オーナー夫妻の自宅に飾られた壁飾りの写真を見つけて、すごく気になって。日本でも手に入らないか探しはじめたんです」
<ジェネラルストア>は、2010年にオープンしたサンフランシスコのサンセット地区にあるセレクトショップ。オーナーのセレナ&メーソン夫妻のもの選びのセンスがファンを集めている。そうしたアメリカ西海岸のシーンから、クラフトやアートとしてのマクラメが日本に伝わったという。
「ところが、当時の日本ではマクラメの壁飾りなんて売ってないんです。そもそも“マクラメ”っていう言葉自体ほぼ知られていなかったくらいですから。運良く見つかったとしても、海外のアーティストの作品で、僕にはとても気軽に買える値段じゃなくて。しょうがないから、自分で作ってみようと。素材はロープと木、特別な道具も必要なさそうだから、どうにかなるんじゃないかって」
そうして完成した1作目は、今も小野さんの部屋の壁に飾られている。「今見ると恥ずかしい」と言うけれど、独学でこれを作るって素直にすごい。
「ボーイスカウトをやっていたので、ロープワークは得意なんです(笑)。あとは試行錯誤しながら自宅用の作品を作って、Instagramにあげていたんです。すると、それを見た知人から『ショップの装飾に使わせて欲しい』と連絡をもらって。作品を見せに行ったら『これは売れるからちゃんとやった方がいい』と」
古い日本の文様をモチーフに
一般的にフェミニンなものが多いマクラメ作品の中で、小野さんの作品はどこか土臭さや無骨さを感じさせる。その理由は、珍しい男性のマクラメアーティストというだけではない。小野さん独特のデザインは、日本古来の正月飾りのしめ縄や、アイヌの文様などからインスピレーションを得ているという。
「海外のアーティストの真似をしても意味がないですから、自分で作るなら、日本の文化を参照したいと思ったんです。例えば高千穂には伝統的な藁細工の文化があるのですが、それをモチーフとして使わせてもらったり。日本の藁細工やしめ縄も、紐状のものを結ぶという意味ではマクラメの一種とも考えられます。マクラメはプランツハンギングやウォールハンギングが人気ですが、マクラメ自体はとてもシンプルな技術だから、より多くのシーンで日本的な文化や暮らしに溶け込める可能性があると思うんです」
後半では小野さんのクラフトマンシップに触れます。小野さんが決めている “やらないこと”とは。
TEXT:Masaya Yamawaka (1.3h/イッテンサンジカン)
PHOTO:Fumihiko Ikemoto(PYRITE FILMS)
小野 正史
https://www.instagram.com/woodandknot/
1975年生まれ。車の整備士として働いたのち、セレクトショップに転職。アパレル企業勤務の傍らマクラメ作家として活動、ウォールハンギングブランド「Wood & Knot」を手がける。2017年、ビームスプラネッツ横浜で初となる展示販売を開催。現在も年に2回のペースで同店にてマクラメ作品を発表。マクラメ作りのワークショップや展示の情報は小野さんのinstagramをチェック。