JOURNAL

SANKICHI KATSURA

前編

お客さん、会場、天気の違いを察知して、それに合わせて変化すること

18歳、高校三年生で故・桂吉朝に入門。大師匠である人間国宝、桂米朝の元で、3年間にわたる修業を経て2005年、内弟子を卒業。以降、古典落語を中心に舞台を重ね、文化庁芸術祭賞新人賞、なにわ芸術祭新人奨励賞、NHK新人落語大賞、咲くやこの花賞など、数々の賞に輝く上方落語界のホープ、桂佐ん吉さん。時代を超えて親しまれる落語の世界には、伝統を受け継ぐ姿勢や、細やかな気遣いから生まれる工夫など、職人芸ともいうべき“CRAFTSMANSHIP”が息づいていました。

追い返されても楽屋へ通った行動力

渡會:各界の職人さんに“CRAFTSMANSHIP”というテーマでお話しをうかがっています。エンターテイメントの世界で活躍する方にご登場頂くのは初めてなのですが、異業種対談ならではの発見があればいいなと思います。
佐ん吉:そうですか。ようこそ大阪へ。

渡會:着物をお召しになると、やっぱりオーラが漂いますね。
佐ん吉:おおきに、ありがとうございます。

渡會:まずは落語に興味を持たれたきっかけから教えていただけますか?
佐ん吉:両親が「枝雀寄席」という深夜番組を録画していて、それを見て落語にハマりました。当時、中学生だったんですが、その後、師匠になる桂吉朝の噺を生で見る機会に恵まれ、すごい人がいるなと。それで、中学三年生の頃に、弟子入りしようと、楽屋入りを待ったりしました。

渡會:すごい行動力ですね。
佐ん吉:何度か追い返される内に顔を覚えてもらい、楽屋に入れてもらえるようになりました。吉朝からお稽古もつけて貰ったんですが、結局、子供やから邪魔になるんですよ。お茶を出したりとか、そういう用事が全然できひん。僕も中学卒業して噺家になるつもりはなく進学を考えていたので、高校行ってからまた来いやというお話になりまして。

渡會:18歳入門なので、3年後にもう一度アタックされたんですね。
佐ん吉:そうです。それで、認めてもらいました。

渡會:弟子入りという制度は最近、聞かなくなりましたが、師匠と寝食を共にして、技を盗む、体で覚えるという感覚は、職人に通じるものがあるのかなと思います。実際、弟子生活はどのようなものでしたか?
佐ん吉:一番辛いのは休みがないことですね。米朝師匠のお家に住んで、24時間ずっと、付いとかなあかんので友達に連絡が取れない。

渡會:厳しい世界ですね。
佐ん吉:理屈じゃないですからね。世間の常識と落語界の常識が全く違いまして、師匠と生活し、身体ごと、骨の髄まで落語家になるために内弟子という制度があるので。

渡會:一般社会と落語界はどのあたりが違いますか?
佐ん吉:たとえば「気を汲む」という感覚ですね。師匠がさっと手を動かしたらその仕草で、「タバコやな」って察して渡さないといけない。一緒に住んでないとわかりません。その感覚が落語にも通じてくるんです。お客さんがどう思ってるか察知できる神経がないとあかんと教えられました。米朝師匠もあんなに偉い人やったんですが、二、三十人で宴会してて、誰々がお酒飲んでないなとか、全部、目を走らせておられたんですよ。

渡會:落語家さんが営業とかやったら凄そうですね。
佐ん吉:そうかもしれませんね(笑)

気を汲んで、わざと毎回変化をつけること

渡會:落語を聞いていると、行ったことのない江戸時代を懐かしく感じる瞬間があります。商人、大工、若旦那など、登場人物の言葉と仕草に息使いを感じて情景が思い浮かぶ。これも落語の魅力かなと思うのですが、噺をされる上でこだわっている所はありますか?
佐ん吉:「ほんまの気」で喋る事ですかね。ネタを毎回、同じトーンや間でやるのではなく、わざと変化をつける。人間が話す時ってこうよねってリアルさをお客さんに思ってもらえるような。ただ、一回掴んだと思って次も同じ事をするとダメですね。

渡會:気を汲み、お客さんの雰囲気を見ながらその都度、変えられるという事ですね。
佐ん吉:その通りです。お客さん、会場、天気、毎回違います。だからその場に合わせてこちらもシフトしていかないとあきません。

渡會:うちの会社では、野外フェスをプロデュースしているんですけど、ステージに立つアーティストさんにも通じるものがあるように思います。
佐ん吉:ミュージシャンの方もアドリブが決まると盛り上がりますよね。

渡會:ですね。あと社員の育成にも当てはまるかもしれない。同じようにやってもみんな違うように育つので。
佐ん吉:落語家もそうです。師匠が同じでも弟子にはそれぞれ個性がある。

渡會:師匠から弟子へ古典を引き継ぎつつ、噺家さんの新しい味が足されていく。それもまた落語の楽しみだと思うのですが、佐ん吉さんが考えられるご自身のオリジナリティとはどんなところにありますか?
佐ん吉:自分しかないものを出そうとは思ってやってるんですが、一言で言うのは難しいですね。ネタによっても違うので。

渡會:アイデアはどんな時に生まれますか?
佐ん吉:ネタの稽古してて、ふと思いついたりとか。この登場人物がこんなことしてたら面白いなとか。歩いてる時が多いですね。他の噺家もそうだと思います。

渡會:覚えたネタを繰り返す中でアイデアがひらめく。
佐ん吉:あと、この落語面白いけど、この箇所がウケないから、ギャグを入れてみよかとか、長い部分を削ってみたり。

渡會:なるほど、お客さんの反応を見て、変えられるわけですね。ネタも毎回、生き物のように変わって行く。
佐ん吉:そうですね。

後半は佐ん吉さんの落語家としてのスタイルから始まります。噺家さんならではのオチの付け方も必見です。

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桂 佐ん吉

http://sankichi.jp

1983年大阪府大阪市生まれ。大阪府立東住吉高校芸能文化科卒卒業後、2001年9月「桂吉朝」に入門。2002年、大阪・太融寺「吉朝学習塾」にて初舞台。数々の新人賞を受賞し、上方落語唯一の寄席「天満天神繁昌亭」での公演を始め、自主企画の落語会など精力的に開催中。米朝事務所所属、上方落語協会会員。趣味は野球とけん玉。

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