JOURNAL

TAKUYA ISHIHARA

前編

分業化する事ですべての人が潤う仕組みを作りたい

人気バンド「King Gnu(キングヌー)」のオフィシャルグッズなどを手掛けるカスタムディレクター、石原卓也さん。氏のモノ作りにおける大きなこだわりは、すべての作業工程を細かく分業化して進めていくこと。その理由を聞けば石原さんという人間の魅力に、多くの人たちが取り憑かるのも頷ける。ここでは、そんな石原卓也さんのクラフトマンシップとルーツに迫る。

一貫した、「洋服が好き」という気持ち

「大学時代から仲間同士でアパレルブランドを展開していたんです。Tシャツから始まり、ブランドのロゴなども作り、次第にアイテムの幅を広げていって」と自身のルーツについて教えてくれた石原さん。大学卒業後は、オリジナルデザインのTシャツを製作する会社へ。そこで7年間という時間を費やし、コツコツと腕を磨いた。

それぞれの分野で、それぞれに最大の輝きを

「元々30歳を機に独立しようと決めていたんです。それで2020年の7月に独立し、この工房兼ショップは今年の2月24日にオープンしたばかりです。」
ちなみに内装を手掛けたのは、

この連載「JOURNAL」のバックナンバーにも登場している、建築家/造園家であり、庭師の小島泰介さん。
https://organcraft.com/journal/taisuke-kojima-1

さらに、フェスなどの装飾も手掛ける横浜・天王町の花屋「The Bulb Book」の中鉢祥太さん。
https://organcraft.com/journal/shota-nakahachi-1



他にも、エイジングアーティストである穴井耕平さんが特徴的な壁をデザインし、間仕切り壁のデザイン・シルクプリントを手掛けた奥田雄也さん、
伊藤陽大さんといったメンバーに加え、自身の父親(石原工務店)の協力もあったという。

仲間たちが手掛けてくれた内装について、石原さんからはほとんど要望を出さなかったという。その理由を聴くと「長い付き合いなので、好みやスタイルを把握してくれているだろうという信頼から」と答えた。

穴井耕平 https://www.instagram.com/anai_kohei/
奥田雄也 https://www.instagram.com/spaceosho/
伊藤陽大 https://www.instagram.com/ace_general_store/

この場所を拠点としたのはなぜ? という問いには「自分の工房&ショップを持つなら、絶対に地元でと思っていて。ここには仲間がやっている服屋などがあり、その存在も大きかったです。」と言ってから、「それに、海が近くにあるから」と、子供のように無邪気に笑った。そうして、完成した工房兼ショップ「ジャムズカスタムメイド(JAMZ CUSTOM MADE)」は、海からほど近い商業ビルの中の少し奥まった場所にあり、知っている者しかたどり着けない作りになっている。まるで大人が作った秘密基地のようだ。

「ここを作る時に意識したのは、できるだけ仲間内でやろうってことなんです。そうすることで、その仕事が仲間のプロモーションにもなって、他から声が掛かって別の仕事に繋がる可能性があるから」

 

独り占めではなく、皆が幸せになるモノ作りの仕組み

石原さんのお話を聞いていると『仲間』というワードが頻繁に出てくることに気づく。そこで率直に聞いてみた。「自分1人でやった方が楽だし、実りも多いのでは?」と。
すると、自身の仕事をする上でのスタンスについて語ってくれた。
「仕事をする上で最も大事なことは、役割分担だと思っています。例えば、注文を受けた時にも、すべてのプロセスを自分一人でやろうとはしないで、なるべく外注するようにしています。また、量産する場合には、地方の工場さんにお任せするようにしています。

自分が注文をとって製作はそこにやっていただく、分業性を取り入れ、それぞれの分野で活躍していくことが良いことだと思うんです。地方の方にはクオリティとキャパを保ってもらって。注文は自分が入れることでやっていこうと。そうする事で皆が潤うから。決して利益を独り占めにはしたくはなくて」

自分から業界の常識を変えていくチャレンジ

「前の会社にいた時、全国にある工場を勉強のために回っていて。その時に『給料が安い』とか『環境が悪い』といった厳しい環境を目の当たりにしました。

ベテランの職人さんが、古い工場で安い賃金で製作しているのを見て、この状況を何とか改善できないかなと思いました。すごく高い技術を持っているのに、こんな安く仕事を受けていて……、と憤りと悔しさでいっぱいになりました」

「だからこそ、安い仕事はしたくないです。もしも安い仕事を引き受けてしまったら、その分苦しむのは工場など、現場を支えてくれる人たちなんです。業界の価格を下げないように、そして同時に仕事の価値も下げたくない。
地方には選べる程たくさんの仕事があるわけではないので、都市部の人間が地方に仕事を回していくことが理想だと考えるようになったんです。
『独り占めではなくみんなで分けようよ』という気持ち。業界全体の価値を分担することで、僕たちの仕事を守っていきたいんです」

過去の経験から、できるだけ細かく、より多くの人たちがその恩恵を受けられるようにする仕組みを確立したいと言う石原さんの目は、子供のようにピュアで優しく、周りの大人たちの心を鷲掴みにする。石原さんと関わる人たちは、この石原さんの器の大きさと芯の強さというところに魅了されている。

後半では引き続き石原さんのこれまでの活動と、今後の展望について聞く。

TEXT: Yumiko Fukuda(M-3)
PHOTO:Fumihiko Ikemoto(PYRITE FILM)

石原 卓也

https://www.instagram.com/d_the_draishi/

DRAISHI
JAMZ CUSTOM MADE / Instrumental beats DJ

神奈川県鎌倉市生まれ。大学卒業後、有限会社タカハマライフアートで勤務し、シルクスクリーンの道へ。2021年2月に地元藤沢でショップ兼工房「ジャムズカスタムメイド」をオープン。多くの人気ミュージシャンのアーティストグッズなどを手がけていることでも有名。

JAMZ CUSTOM MADE
神奈川県藤沢市片瀬海岸1-11-20 シルフィード湘南1F奥
URL:https://jamz-custommade.com
店頭では、Tシャツやパンツなどボディの販売に加え、プリントや刺繍の打ち合わせが可能。興味があるグラフィックやデザインがあれば、持ち込んでみてはどうだろうか。

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