JOURNAL

KATSUHIRO SAITO

後編

欠けている部分や穴の空いた部分、そのどれもが大切な個性

後半では、様々な職を転々とし続けていた齋藤さんに、新たな目標が生まれる。そして照明器具作りとの意外な出会い。その後は、天然の素材であるが故に、どうしても出てくる欠けや穴といった部分。木そのものの、それぞれの個性を生かしたランプ制作を行うようになった経緯と、これからの展望などを聞く。

念願の家具製作に携わるようになり、製作所で働く日々の中で違和感を感じるようになっていった齋藤さん。いわゆる造作家具制作をメインとした業務と、無垢の家具を作りたいという齋藤さんの溝が埋まらず、オリジナル家具や幅広い家具を制作できる会社に転職をした。

本当に作りたいものは、大量生産品ではない

「オリジナル家具を作るのは、今までの決まった作業工程だけをこなす仕事ではなくて新しいアイディアを出せる環境で、色々試行錯誤ができてすごく楽しかったんです。職業訓練校を卒業して最初に就職した製作所は、いわゆるフラッシュ家具(※芯材と呼ばれる木材を、梯子状に枠を組み表面に薄い板を接着剤で張り付けた板(フラッシュ合板or中空合板を、ダボや木ネジや接着剤を使用して作られた家具の通称)を中心とした、大量生産品を作っていました。でも自分が作りたかったのは、もっと木の良さ、自然なままの姿の良さを生かしたものだったと気づいたんです」

ここでも齋藤さんは、新たな発見をすることになった。当初は「家具を作りたい」という気持ちであまりこだわりを持たずに就職したが、そこで大量生産品や粗悪な木材を組み合わせた材料で家具を作り続けていくことに疑問を感じるようになったという。

「もっと材料にこだわりを持ち、長く使ってもらえるような物を作りたい」と、思い転職を決意。次に就職した先はオリジナルの家具を中心に制作する会社だった。

「色々なまわり道をしてきたけど、これからはやっと自分の理想とする物が作れると思いました。業務内容も満足のいくものでした。でも、オリジナルの家具を作れる様になったのも、前の職場の技術を生かしているからこそ出来たことだし、その職場に就職できたのは職業訓練校で1年間学んだからだと思うようになりました。だから、僕にとっては必要な過程だったと思えるようになったんです」

しかし、その後、そのオリジナル家具を作る会社の齋藤さんの所属していた部門が無くなるというハプニングが起こる。別の部署に移動するという選択肢もあったが、結局は齋藤さんを含むその部門メンバー全員がほぼ同時期に退職、つまり解散という選択をしたという。

今までの過程は、全てが宝物のように自分の中に根付いている

「そのタイミングで、いつも心の中にあった『独立をしたい』という気持ちが強く表に出てきました。でも、オリジナルの家具を作るには、最初の設備投資に莫大な資金が必要になってくるんです。場所を借りて設備を整えるのが。そこまでハードルが高いとなかなか踏み切れなかったんですが、その時に巡り合ったのが『木工旋盤』という、この機械なんです」

そう言いながら齋藤さんはその「木工旋盤」を指差し、機械の説明をしてくれた。

「ウッドターニング」という、高速で回転させた木材に刃物をあてて削る木工作品のジャンルがあり、それをする為の木材を回転させるための機械が「木工旋盤」である。わかりやすくいえば、「ろくろ」の機械の回転が横向きになったものだという。

「その機械を手に入れて、最初は木で器を作ったりしていたんです。でもすぐには売り物になるようなクオリティの物は勿論できなくて。僕も生活の為に別の仕事をしながら作っていたので、地元のクラフトフェアとかに出すようになるまでに3年程かかりました。仕事をしながらの制作なのであまり数も作れなくて。作れるものは基本的に円形の物なんですね。それで最初はオーク素材でお皿や器を作っていたんですが、ある時、美容室を経営している友人に『照明器具って作れる? 』って聞かれたんです」

そこで齋藤さんは、改めて考えてみれば器の形にランプの形状に非常に近いということに気付いたという。

キッカケは、友人からの素朴な質問だった

「『ランプシェード?多分作れると思うよ』って軽く答えたんですね。まあ、お椀をひっくり返してそこに穴を開けて電気がつくようにすれば、シェードが作れると思って、チャレンジしはじめたんです。僕の場合は、傘の部分を開いて削り、その部分からコードを天井に繋げられるようにしたものを作っているんです」

その「サンプル」の照明器具を作り、試作を重ねていくうちに、次第に今まで作っていた器よりも照明器具の方に心が惹かれていくのを感じるようになったという。

「あとは、クラフトフェアなどを見ても、木の器を作っている方は他にもたくさんいたんですね。だから、そこはオリジナリティというか、誰もしていないことをしていった方が自分も楽しめるんじゃないかと思ったんです。照明器具主体でやっていくのは、正直茨の道だとは思ったんですが、人と違うことをしたほうが面白いと思う性格なんですよね」

普通の人なら木の欠点と捉えてしまいがちな欠けた部分や穴の空いた部分を、齋藤さんは敢えて使用し、作品を作り続けている。

完璧な人間がいないとの同じで、木にも欠点や個性がある

「僕も含めて、人間誰しもそうなんですが、木にも個性があるんです。木に空いている穴などは、普通の人はダメな部分、使えない部分として捉えがちなポイントなんですけど、僕から見たら天然の素材ならではの良さだと思うんです。完璧なものが欲しければ、今の時代いくらだって作れるし買えると思うんですよね。でも無機質すぎて温かみや安心感を得られない、大量生産品のようなものができてしまう。僕は、そういうものを作っても自分自身も楽しくないし、自分の生活に必要ないかな、って思うんです。だから僕の役目は、木そのものの個性を探して引き出してあげることだって思いながら、作品を作り続けています」

色々なまわり道をし、その道中で色々なことを得てきた齋藤さんが言うように、我々がどこか完璧ではないものに惹かれるのは、それが自分と似ているからかもしれない。

天然の木で作られた照明の光を見ていると、温かく、どこか懐かしい気持ちになるのは、それが我々の過去を思い出させてくれる明かりだからだろう。

 

INTERVIEW:Daisuke Udagawa(M-3)
TEXT: Yumiko Fukuda(M-3)
PHOTO:Fumihiko Ikemoto

齋藤 勝弘

recordwork.blogspot.com

「record」木工職人
齋藤勝弘
1975年生まれ、千葉県出身。

技術専門校木工工芸科修了。家具製作所勤務、特注家具の製作に携わる。その後、アンティーク家具店にて家具修復・オリジナル家具の制作等を経て、現在は千葉県野田市にて制作活動中。
店名である“record”( =記録する、書き留める、示す、述べる、物語る等)とは、つくり手が、思いを『record』し、つかい手が、日々の生活を『record』していくという意味が込められている。

HP recordwork.blogspot.com
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