JOURNAL

KATSUHIRO SAITO

前編

まわり道も失敗も、ここにたどり着く為にすべて必要だった

一目見たら、その素朴な味わいと温かみが忘れられないと密かな評判をよんでいる工房「record」。選びぬかれた天然の木材を使い、その木の持つ穴や亀裂などもそのままに形作っていく。見る人をどこか懐かしく、そして離れがたい気持ちにさせる、そんな作品を作り続ける齋藤勝弘さんのクラフトマンシップに迫る。

斎藤さんが現在のスタイルを確立するまでは、少しまわり道をしている。本人曰く「その経験があったことを全く無駄だとは思ってない」とのこと。大学では建築を学び、建築関係の会社に就職するも、すぐに退社し、そこからはアルバイトで生計を立てる日々だったという。

周りに流され、ただ消化するだけだった毎日

「就職活動の時も、僕はあんまり真面目な学生じゃなかったんで、周りがしているから自分もしている、くらいの感覚でしたね。大学で学んだことも、強くその分野を求めていたかと言われれば、うーんと首を捻ってしまうくらいなんです。消去法というか、どうしてもやりたくないことを除いていったら残ったもの、という感じで。だから、就職してもその場所が自分にとってしっくりくる場所じゃないと感じて、すぐに辞めてしまったんです」

その後、フリーターとなった齋藤さんは、アルバイトをしながら自分がやりたいことについて考え始めたという。そしてその夢の為に何が必要かを考え、まずはお金を貯める決意をし、建築とは全く別の分野でアルバイトからそのまま正社員へ。

「その時は、レコード屋さんを開きたくて。それでその為にアルバイトではなく社員として期間限定のような感じで働き始めたんです。お店を開く資金が貯まった時点で、辞めるつもりで」

その後、28歳でレコード店をオープンさせた齋藤さん。買い付けは海外まで出向くこともあったという。アメリカは西海岸やニューヨークまで自身で出向き、現地のレコード店を周って探すような生活はとても充実していた、しかし。

結果が失敗に終わっても、それは自分の糧になる

「最初の1年半を過ぎたあたりから、売り上げ的な面で現実の厳しさを感じるようになってきたんです。音楽が好きでしたし、その仕事も好きだったんですが、生活をしていくには余りにもしんどいと言うか。要は、全然儲からなくて(笑)。次第に将来へ不安を覚えるようになっていったんです。このままで大丈夫かな?と」

その当時は実家暮らしだったこともあり、生活の心配はせずに済んだものの、将来的に生活できる程の売り上げが見込めないと、2年弱で閉店することになった。今のように、ネット販売や中古市場も活発ではなく、たった一人実店舗で展開していくには、とても厳しい世界だった。

しかし、この店舗は閉店を余儀なくされたが、齋藤さんにはある収穫があったのだという、それは。

「閉店を決めた時はとても悔しかったですし、言葉では言い表せないような想いがたくさんありました。でも、自分では精一杯やったつもりでしたし、後悔はなかったように思います。やっぱり自分の好きなことをして、その結果が周りから見て失敗に終わったように見えても、本人には失敗ではないこともあると気付くことができました。今までのように、なんとなく消去法で決めていたのでは、あの充実感を得られない。やはり自分で決めた、自分の好きなことをしようと思えるようになったんです」

そして齋藤さんが得た収穫は、実はそれだけではなかった。レコード店をオープンさせる時に、大学で学んだ建築の知識を生かして自分で内装を手掛け、重機などを作った時に、充実感を感じている自分がいたことを思い出したのだ。そこで齋藤さんは、建築に関係した物作りの道に飛び込むことを決意し、次なる道を決めることになる。

ものづくりのスタート地点に立って、新たに学び直す決意

「突然、家具を作ろうと思ったんです。大学で建築を学んだのも、なんとなくとは言え、やっぱり好きだったからなんですね。それで物作りというか、何かを自分の手で作り上げていくことを仕事にしたいと考えるようになったんです。それで家具職人になるには、どんな勉強をすれば良いか調べ、埼玉県にある職業訓練校には家具コースがあることを知ったんです」

そこで齋藤さんは、産業労働部 川越高等技術専門校の木工工芸科に1年間通うことを決め、新たな生活をスタートさせた。

最初は右も左も分からないような状態からで、刃物の研ぎ方や道具の使い方、 機械の使い方などの基礎的なことから学び、1500時間以上もかけてコツコツと技術を身に着けていったのだという。

その後、無事に全過程を修了した齋藤さんは家具製作所に勤務し、そこを3年半程で退職。

後半では、引き続き齋藤さんが現在のスタイルを確立するまでと、ランプ制作の奥深い魅力について伺っていく。

 

INTERVIEW:Daisuke Udagawa(M-3)
TEXT: Yumiko Fukuda(M-3)
PHOTO:Fumihiko Ikemoto

齋藤 勝弘

recordwork.blogspot.com

「record」木工職人
齋藤勝弘
1975年生まれ、千葉県出身。

技術専門校木工工芸科修了。家具製作所勤務、特注家具の製作に携わる。その後、アンティーク家具店にて家具修復・オリジナル家具の制作等を経て、現在は千葉県野田市にて制作活動中。
店名である“record”( =記録する、書き留める、示す、述べる、物語る等)とは、つくり手が、思いを『record』し、つかい手が、日々の生活を『record』していくという意味が込められている。

HP recordwork.blogspot.com
Instagram @record.jp_archives

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