BACKSTORIES

光に包まれ、時間が静かに流れる 隠れ家のようなお店

「自分のお店を持つ時は、オルガンクラフトに内装を依頼すると決めていました」と穏やかな口調で語ってくれたのは、ジャパンメイドにこだわった製品を中心に揃えるセレクトショップ「lupus(ルプス)」オーナーの高橋靖さん。店内はコンパクトな作りながらも、商品の本来の良さが伝わるよう様々な仕掛けが所々に施された設計が特徴。柔らかく印象的な光が窓から差し込む店舗は、初めて来た場所とは思えないくらい、どこか懐かしい気持ちにさせてくれる。

春の柔らかい光の中、設計を担当した槙原さん(オルガンクラフト)とともに生まれ変わった店舗の魅力を紹介していきます。

<Profile>

店舗主/高橋靖さん。鞄デザイナー、広告代理店勤務を経て、念願の店舗を21年3月にOPEN。ジャパンメイドにこだわったシューズ商品を中心に、生活雑貨なども取り揃える代々木上原の隠れ家的セレクトショップオーナー。

 

■SHOP INFO

lupus/ルプス DOMESTIC SNEAKERS&GOODS

東京都渋谷区西原3-24-10 PDビル4F

TEL:03-6407-1843

MAIL:info@lupustokyo.com

Instagram:@lupus_tokyo

あえて低めに設計したという商品ラックからには大量の自然光が差し込み、屋外で使用することが多い生活雑貨本来の姿が確認できる。

傷さえも店舗のレガシーに

什器は本来塗装して使うステンレス2Bをチョイスしたのは、店舗主の高橋さんの希望に寄り添ったもの。

「こだわりを感じられるものや長く付き合っていくものを厳選した商品ラインナップに」というお店のコンセプトに寄り添い、長く使うことでまた違った魅力が生まれるという。

ヴェールがかかったように淡いシルバーカラーの枠は、傷が付くことで光沢が出ていくんです。長く使っていただくことで、店舗オリジナルの歴史が刻みこまれていくようなささやかな仕掛けをここにも1つ仕掛けました(槙原さん)

日本建築とモダンの融合

「高橋さんからいただいた希望は、『日本建築とモダンをあわせたようなお店にしたい』というものだったんです」(槙原さん)

「シューズを選ぶときに、腰掛ける椅子にもこだわりがあって。ミッドセンチュリーモダンの草分け的存在でもある、『柳宗理』の限定チェアをはじめとし、『A.R. Cordemeyer』のソファや『CAMBRO』のローテーブルなどを揃えています。お客さまがゆっくり商品を選べるように、落ち着いて過ごしていただくためにあまり『新しすぎないもの』や『キレイすぎないもの』という希望を出しました」(高橋さん)

閉塞感を持たせない、在庫がむき出しのラック

「床は既存のカーペットを剥がし、糊剥がしのケレンを手作業で行いました。手作業にすることで使い込まれた風合いや墨出しの跡なども残ったままにあえてすることで建物の記憶のような部分を感じ取れるように考えました。新しいものと古いものを融合することで高橋さんのイメージする空間に近づけることが出来たかなと思います」(槙原さん)

「建築分野のことはわからないので、自分が実現したい理想のカタチにするには『ここの強度を強めた方が良いね』や『こうしてみたら?』などの槙原さんからのたくさんの提案がすごく役立ちました。建物だけで完成された場所ではなくて、商品が入って初めてでき上がる空間にしたかったんです」(高橋さん)

小柄な方でも手に取りやすい位置に配置された商品の数々。

「『こだわりのあるものを』『長く使えるものを』というのが商品をセレクトする時の大きな基準の1つなんです」(高橋さん)


生活の中に馴染むような商品が想像しやすいディスプレイが叶うラック

 

道具は増えても、スペースを邪魔しないアイディア

「限られたスペースの中で、マテリアルが多すぎると商品の良さを最大限に伝えられる店舗になりにくいと思い、すっきりとした印象に仕上げました。また、角部屋でバルコニー付きという好物件という特徴を活かし、とにかく窓をたくさん採用し、至るところに光が差し込んでくるような構造にし、抜群の明るさと開放感を演出しました。また、試着ルームの扉とミラーを一体化し、服を試着した時に全身が確認できる大きさを確保し、さらに広々とした空間に感じていただけるようにしました」(槙原さん)

店内の什器はすべて可動式の車輪付きで構成

「商品に合わせてディスプレイを自由に変えていきたいと思って、最初から可動式の内装を依頼していました。座った時に足元を見られるような鏡や、商品が高い位置にあって取りにくいなどの弊害がないようにあえて低いラックなど、自分が想い描いていた理想のお店に仕上がったので凄く嬉しいです」(高橋さん)

「道しるべ」とメッセージを込めた店名

ルプスの店内には時計がない。その理由を聞くとこんな答えが。

「長く使える商品を、こだわりを持って選んでいます。だから購入していただく方にも試着をしたり、考えたりする時間が必要だと思うんです。お客様には、あまり時間に追われて欲しくなくて、あえて付けていません。商品を大切にしていただくためには、どうやって、それらが作られたかを知っていただくことも大切じゃないかと思うんです。だからひとつ一つ丁寧に説明したいんです」(高橋さん)

店名のルプスはラテン語で狼という意味と、エジプト神話の狼の姿をした軍神『道を切り開く者』を意味するウプウアウトを連想してつけたという。

「自分のお店を出す」という大きな決断をしたことや、その内装をどこに依頼するかを選ぶときに、オルガンクラフトを選んだ高橋さん。

「こだわりのあるもの」「長く使えるもの」という商品を選ぶ時の基準をしっかりと伝えるお店作り。そんな素敵なこだわりが詰まった空間と時間がここにはある。

Photo:Daisuke Udagawa(M-3)

Edit:Yumiko Fukuda(M-3)

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