「先のこと考えても不安になるだけ。だって、明日の天気すら読めないのに」。花楓は、くるくると表情を変えながら話す。伝えたい思いに言葉が追いつかないみたいな早口のリズム。洗練された佇まいを気持ちよく裏切るみたいな、直感を大切にする動物的な感性。そう伝えると、ふふふと笑って話を続ける。
「たしかに衝動的かもしれないです。今日食べたいものを食べたいし、会いたい人に会いたい。明日死んでも悔いがないように、今この瞬間を楽しむことを大切にしたいって。服とかインテリアでも『どうしてそれを選んだんですか?』ってよく聞かれるんですけど、うまく説明できなくて。コラージュの作品とか音楽も、全部、感覚なんですよね。私は“なぜかわからないけど好き”が最高だと思ってるし、言葉にしきれない部分を大切にしたいから」
父はヴィンテージカーの販売店を経営する趣味人。自由とこだわりを愛する感性に影響を受けて育った。モデルを始めたのは中学生の頃。高校の制服は半年で捨ててファッションの世界に飛び出した。雑誌の表紙やテレビのCMで見かけるまで、そう時間はかからなかった。
「10代20代は必死に突っ走ってきた感じで、本当の意味でうまくまわりだしたのって最近です。1回モデルを辞めてた時期もあるし、2011年の震災の後は食事も食べられないくらい不安定になって。楽になったのは30歳くらいから。それはやっぱり家族が大きいと思います。夫のShogoはキラキラした目で人のために全力で動くような人。こんな人、本当にいるんだ!って、衝撃的でした。それから一緒に東北のボランティアに行くようになって。それまで1人で必死に走ってきたけど、人のために動いて、人のことで涙を流すようになったとき、かえって自分の大切なものが見えた感じがしたんです」
Shogoと結婚して9年、息子は小学生になった。モデルのキャリアは27年。忙しい毎日の中でも活動は広がっている。『Wall Speak』と名付けた古い絵本を使ったコラージュ作品は個展のたびに完売。洋服やインテリアのデザインも続けながら、最近はラップトップでの音楽制作に夢中。そうした彼女のライフスタイルのファンも多い。
「昔は『モデルさんですか?』って聞かれるのに抵抗があったんです。外見だけでどうせ中身空っぽなんだろって、軽く見られてるような気がして。それって多分、自分に確固とした自信がなかったから。でも今は胸を張って『モデルです』って言える。家に帰れば家族がいて、制作があって、自分の“B面”みたいなものを大切にできていて。それがあるから、モデルの仕事も本気で楽しめてる」
音楽に向き合う時間、コラージュの制作、家族とのひととき。自宅は、そんな花楓のB面を支える空間になった。今回オーダーメイドで作ったのは、壁一面のユニットシェルフ。思い描いたのは、原状回復ができてテレビを収納できる棚。扉を閉めれば写真を飾れるシンプルな壁、開けばテレビや本が収納された、2面性のある佇まい。
「元々後ろに窓があったんですけど、抜けが悪くて嫌だったんです。室外機が見えてたりして、リビングから窓の方を見るのがストレスなくらい(笑)。それなら、シェルフで窓ごと隠しちゃおうって。簡単に出入りできるようにパネルタイプで取り外しが出来る形を提案してもらって。テレビを収納したかったのも同じで、部屋で目に入るものを好きなものだけにしたかったから。それに、日本の部屋って絵や写真を飾るスペースが少ないものが多いですよね。だから、収納だけど扉を閉めたときは写真を飾れる壁になる、そんなイメージで考えて。賃貸だからって諦めるんじゃなくて、嫌な部分があるなら変える方法を見つけたかったんです。この棚が来てから窓があった頃よりこの場所で過ごす時間も増えたし、家がもっと好きになりました」
花楓にとってモデルって何だろう? そう聞いてみたら「本気の遊び」という答えが返ってきた。その場所その時間をより楽しむために、我慢や妥協はしない。それは家族と暮らす自宅の空間作りでも、モデルとしての撮影現場でも同じ。彼女の生み出すポジティブなムードは自然に周囲に伝わっていく。
「どんな場所でも楽しむ方法はあると思うし、せっかくなら楽しんだ方が絶対にいいから。心地いいムードは作れるし、私はそのムードを生み出す人でいたいって思うんです。私の人生って今までが修行でこれからが本番って感じがします、今はすごく楽だし、戻りたい過去なんてひとつもない。いつでも今が一番楽しいって、そう思っていたいんです」
Text:Masaya Yamawaka(1.3h/イッテンサンジカン)
Photo:Fumihiko Ikemoto(PYRITE FILM)