STORIES

ディレクター・デザイナー・施工管理・施主へのインタビューで、
家づくりを基点としたストーリーを紐解く。

CASE3:TOYOCHO
ひとつに偏らないからこそ生まれる統一感。
そのスタイルや創造性の背景は、どこにあるのか。





この住まいをひとつのジャンルとして表現することは、避けたい。
地方創生を主軸とし、店舗等のコーディネートも手掛ける旦那様と、奥様。
台湾にルーツを持ち、日本のみならずあらゆる国の文化に精通する旦那様が舵取りを行い、ふたりの考えを丁寧に落とし込んだ。

京都にいた8年間で、“コト・モノ”の価値を知った

台湾で日本酒バーを経営していた旦那様は、その後、京都に約8年間住んだという。京都の芸大生や芸術ビザ取得を目指すフランス・コロンビアから来た人らに向けシェアハウス事業をしていた。その生活のなかで、和菓子・日本酒を皮切りに、手仕事の価値に触れ、知識の幅が、ぐっと拡がった感覚だったという。


施主撮影

あくまでも、住むための空間だということ

今回の家に関しては、ご夫婦それぞれの価値観を押し付けるのではなく、将来のライフスタイル変遷を念頭に、お互いの意見を各所取り入れつつ進行した。要所で、スタート時点から用意していたイメージボードに立ち返り、あくまでも軸はぶらさず。

全体的に圧迫感の排除を考え、リビング天井を中心に躯体あらわしにし、洗面については、壁上部にオープンなスペースを確保した。







どこをとっても“いい塩梅

各所の素材は、質感・存在感・価格などをベースに比較した。
天井・壁は、躯体あらわしと塗装、クロスを使い分けた。床は、リビングにフローリング、洗面・キッチンに磁器質タイルを使用し、トイレやゲーミング部屋として使う洋室は磁器質タイルと遜色ないフロアタイルを選定した。
個性ある家具たちに溶け込むよう、キッチン・洗面については既製品ではなく造作で。一部建具には実際の石を使用したスライスストーンを上貼し、洗面下には雪見窓まで用意した。
また、これまたやりすぎない塩梅で、玄関正面の壁面にアールのラインを施し、
下部にはキャットウォークを用意。このリビングを中心に家族全員が心地よく過ごす。
























創造の中心は、世の流行ではない

施主セレクトのインテリアを見れば一目瞭然だが、セレクトの軸に「あれが流行っているから」という項目はない。
「これは、僕が静岡県に行った際に、ワークショップで製作した清水瓦の鬼面で、こっちは仕事の視察の際に購入した福島県南会津の南郷刺し子で..」と施主の民藝・工藝愛が溢れている。
決して物が少ないわけではない。台湾で購入した中国製の建具、インド製のソファ、オランダ製のクローゼット、パキスタン製のマットなどあらゆる土地のエッセンスが、ゆるやかに内包され、まとまりのある空間となっている。














Q.家に対する想いやルーツはありますか?

ルーツは、あらゆる場所にある気がします。私は、台湾の永和という土地で生まれ育ちました。大好きな地元ですが、人口密度が台湾でもトップのエリアで、建物の隙間から月を見るような、空があまり見えない印象が強く残っています。台湾では日本酒バーをやっていましたが、そのあと京都に移りました。空がこんなにも広くて、道路も広くてすっきりしていると衝撃を受けたのを覚えています笑。京都と聞いてイメージされる方も多いですが、職人文化が根付いていて、民藝・和菓子・日本酒等を通して、あらゆる価値を知りました。伝統品と海外のアーティストがコラボする機会も多く、そこで、あらゆるジャンルの人と出会えたことも自分にとって大きかったと思います。また、妻は青森出身ということもあり、少しでも自然を感じる場所に拠点を構えたいという願望がありました。窓から自然も見えますし、このエリアは、すごく気に入っています。[旦那様]

Q.今回、家づくりのインスピレーションはどこから来るものだったか?

まず、家づくりの決まり事として、夫から言われてハッとしたのは、「短期間で捨ててもいいかとなるものは、なるべく買わないようにしよう」ということでした笑。インテリアが揃ってきた今は、その意識の大切さを痛感しています。[奥様]
常にイメージが湧いてきますが、今回大切にしていたのは、なにごとも最終的には妻と一緒に決めることでした。インスピレーション自体は、作家さんの作品から色味や温度感を吸収することが多かったと思います。もちろんネットで画像などを見ていましたが、実物からもイメージを得ることは意識していました。[旦那様]

Q.解体後・中間・完了時など複数回現地確認のタイミングがあったかと思いますが徐々に出来上がる姿はいかがでしたか?

着工してから完了まで、想定より早かった印象があります。解体後は、解体前より空間が狭く見えたり。照明など、計画が難しい箇所もありましたが、イメージのままの仕上がりで感動しました。[奥様・旦那様]

Q.新居での暮らしはどうですか?

まず、立地含めこのエリアを気に入っています。あらゆる国の方が住んでいるエリアですし、朝5 , 6時にカモメが来ることもありますよ。その鳴き声で起きることもあります笑。リノベならではというところで、壁に収まっている中国製の収納扉がお気に入りです。[奥様]
料理を頻繁にすることもあり、キッチンの空間がやっぱり好きですね。
庭を作っている最中なので、室内・外のあいまいな感じをもっと創り上げていきたいです。[旦那様]

Q.次回リノベをするとしたら、今回の経験をどう活かしますか?

次回リノベするなら、もっと収納スペースにこだわってみたいです。
あとは、家電に合わせて、コンセント数や位置などをもっと綿密に計画してみたいです。多すぎても見栄えにも影響するし、新しい家電も増えていくので難しい問題ですが。[奥様]
これからリノベする方にも伝えたいこととしては、解体する前の既存写真をあらゆる角度からたくさん抑えておくことですね。サイズ感も。打ち合わせを進める中で、振り返って見れる素材をたくさん手元に用意しておくことをおすすめします。[旦那様]

さいごに、台湾の言葉で好きな言葉をお聞きしました。

『一切都是最好的安排』という言葉は、大切にしています。
すべては最善の結果につながるようにできているという言葉で、「今起きていることにはすべて意味があり、たとえ困難に見えても、最終的には良い結果をもたらす」という深い信念を表しています。
施主から、すてきな写真を頂戴しました。ベッドルームにすだれが追加され、夜の姿もまた違う良さです。ゲーミング部屋などは、ご自身で漆喰を塗り途中とのことで完成が楽しみです。








Planning & Design:Kitahara,Kawasaki
Construncion Management:Nakano
Location:Toyocho
Area:61.53 ㎡
text/photo (shot on iphone):ORGAN CRAFT