JOURNAL

YUTA MORIKAWA

後編

技術の追求とトライアンドエラー

小さなガラス玉の中に、宇宙のような広がりを表現する、ガラスアーティスト森川勇太さん。弊社スタッフの同級生という縁があり、今回、お話を伺いました。「玉響glass」という屋号に込めた思い。サラリーマンと二足のわらじ時代の苦労。自分一人で作品を作り続けるからこそ必要な成長への意思。そして技術の研究とトライアンドエラー。それらはすべて、森川さんのクラフトマンシップです。だからこそ誰にも真似のできない美しい作品が生まれます。

試行錯誤から見えたオリジナリティ

渡會:ガラス工芸の技術をどのように技術を深めていったんですか?
森川:このガラス工芸って伝統的なグラス作りなどと違って、まだ、20年くらいの歴史しかないんです。だから、技術としてもまだ追求されきってないというか、やり方は自分次第なんです。基礎的なところはワークショップで習いましたが、その後は自分で新しいやり方や表現方法を生み出す必要がありました。だから、ずっと一人で試行錯誤してきたんです。

渡會:なるほど。だから、誰かのもとで修行するというよりも、自分自身でリサーチと実験を繰り返すような方法で、技術を深めているわけですね。
森川:はい。今でこそ、このジャンルの作家さんも増えてきましたが、僕がはじめた頃は全然いませんでしたから。だから本当に大変でした。失敗したこともたくさんあります。火に手を突っ込んでしまったこともあるし、手を切ってしまうことも多々あります。

渡會:ちょっとした油断で大怪我につながる作業ですよね。
森川:かなりの集中力が必要な作業です。ガラスを回しながら、熱で溶かしていくんですが、一定のリズムで回し続けると、均一に熱が伝わり、きれいな模様になります。指の動きは大切なので、日頃から常に指の感覚を忘れないようにしています。

渡會:その試行錯誤で見えてきた、玉響glassのオリジナリティというのはどういったところなのでしょうか?
森川:ガラス玉の中に3D空間のような、奥行きをつくるということでしょうか。僕の作品には、耐衝撃が強く、防犯ガラスにも使われるような固いガラスを使っています。密度が濃い分、透明度が高いんです。そこを活かして、透明感と奥行きを、強く意識してつくっています。

渡會:その透明感は、玉響glassという屋号にも表れている気がします。とてもキレイな言葉の響きですよね。
森川:玉響というのは、玉と玉がぶつかる音のことで「ちょっとした」とか「つかの間の」という意味があります。アクセサリーだから、その人の人生を変えるというような大げさなものではないですが、「さあ、出かけるぞ」というちょっとした気合いだったり、友達に褒められて「うれしい」というような、ちょっとした変化を起こせればいいなと思ってこの名前をつけました。

渡會:素敵な屋号ですねぇ。
森川:続けていると、いろいろと良いこともあるもので。今でもよく覚えているのは、僕の名刺を、1年間、ずっと財布の中に入れていた小さな子がいたんです。ボロボロになった名刺を持って、その間に貯めたお小遣いで、作品を買いに来てくれて。もっと値段を上げたいのですけど、上げられなくなってしまいました(笑)。

自分で自分を成長させ続けるということ

渡會:それはうれしいなぁ。森川さんにとって、モノづくりをしていく上で、イチバン大切にしていることはなんですか?
森川:個性的であるとか、有名になるとか、いろいろ考えたんですが、結局最後に残るのは、上手くなることですかね。上手くなるように努力を続けて、自分自身をさらに引き上げていくというか。

渡會:自分自身を?
森川:一人でやっているので、自分で自分を成長させ続けるのって、とても大変なんです。お客さんが買ってくれればもちろんうれしいんですが、買ってくれた後、さらに自分が成長したところをちゃんと見てもらえるように、自分自身をどんどん高めていかないといけない。買ってもらったときから変化がなければ見てもらえないですから。でも、変わり続けるのはすごく難しい。売れれば、売れるほど、売れたものの補充作業になってしまいがちなのですが、次の1歩を踏み出していく勇気と時間を自分自身でつくらないといけなくて。

渡會:「新しいものを生み出したい」という気持ちと「上手くなりたい」という気持ちですか?
森川:そうですね。なかなか言葉ではうまく言えないんですけど。買ってもらっても、買ってもらえなくても、どちらでも構わないんです。でも、自分が成長していることは、ちゃんと示さないといけないと思っています。10人に対して10個の作品を売るよりも、自分の成長を見守ってくれているファンの人に、成長した作品を示し続けることができるか。そういうことが、モノづくりには大事なんじゃないかと思っています。

渡會:成長し続けることが、森川さんにとってのクラフトマンシップなのですね。その繊細な技術から生まれた作品は、本当に美しいです。今日はお話きかせていただいてありがとうございました。

 

TEXT:Shintaro Kuzuhara
Photo:Fumihiko Ikemoto(PYRITE FILM

森川勇太

http://tamayuraglass.com/

1983年神奈川県横浜市生まれ。
大学卒業後、照明器具メーカーにて営業を経験。会社勤めをしながら2008年ドラゴンパイプの早乙女さんのワークショップを受け、ガラス工芸に目覚める。2011年、脱サラし玉響glassとしての活動を開始。
趣味はガラスをいじること。

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