JOURNAL

YUSUKE HANAI

後編

好きなことを自分でやる。そうやって波は広がっていく

今まで自分が思ったことや感じたこと、見たものをまるで絵日記のようにスケッチブックに溜め込んでいくというアーティストの花井祐介さん。インタビュー後編は「創作」についてより深く語ってもらった。

これまでに数々の作品を生み出してきた花井さんだが、過去の作品にはあまり興味がないのだとか。と言うのも、「どうしてもっとこういう風に描かなかったのだろう」と、当時の作品に満足することがないからだそう。自分のオリジナリティが確立したのはいつ頃かと聞いてみると、花井さんは今もやっぱり満足はしていなかった。

「それはいまだに考えていますね。何となくは出来てきたのだと思うけど、まだまだなんじゃないかな。決めちゃってそれを描き続けるのは面白くないですし。その時は『いいかも』って思っても、次の日には『もっとこうしようかな』って変わっていくので、常に探求しています」

クリエイティブでいることは、バランスをとること

 何もないところから、日常のちょっとした失敗や笑い話にしたい過去をクリエイティビティへと変えて、私たちの感性を刺激してくれる作品たち。そんな作品を生み出す花井さんにとって、刺激を受けてきたことのひとつにアメリカでのボランティア活動がある。それは予算不足のために美術と音楽の授業がない公立小学校で、アーティストやスケーターなどの仲間達と一緒に、生徒たちにクリエイティブな授業に触れてもらおうというものだ。

「僕の場合は、好きな言葉と絵を描いてTシャツのグラフィックを作ってみましょうなんて課題を出して、今年で12年目です。クリエイティブなことに触れた方が子供にとって精神的にも健康ですし、『手作業でやる』ってやっぱり良いことですよね」

日本でも理数系能力の強化のために、芸術系の科目時間が削られている。中には「試験に出ないから」という理由で全く不必要なものだと考える大人もいるのかもしれない。でも、勉強は出来ないけど図工は好き、音楽は好き。そうやってバランスを取る子どもたちもいる。花井さんもその内のひとりだったそう。

「創作することって生きる上で要らないのかもしれないけど、本当はやっぱり必要なことだって自分でも再確認できるし、刺激をもらえます。それに、クリエイティブなことはなにも仕事にしないといけないわけじゃなくて、自分で好きにやればそれで良いと僕は思います」

 

馬鹿にされても自分でやれば、いつか道は拓ける

 初期の頃はZINEを作って売ったり、絵にハマるきっかけになった店も自分達で作ったり、さらには現在アトリエにしている小さな古民家も出来るところは自分でリノベーションしたという花井さん。

時間をかけて、大事に自分で手を加えたアトリエはあたたかみがあって、思わず落ち着いてしまう。サーフボードにレコード、フィギュアや本。花井さんが作った好きなもので溢れる空間で聞いてみた。花井さんにとっての「クラフトマンシップ」とは?

「自分がクラフトマンなのかどうかは分からないですけど、DIY精神みたいなのはやっぱり好きですね。自分でやろう、なかったら自分で作ろうとか。とにかく自分でやってみる。人に頼らず、たとえ馬鹿にされても、自分でやっていたらそのうち評価される時が来るのかもって思います」

地道にコツコツと続けてきたことはいつか評価を得る。花井さんこそ、まさしくそれを体現している人だ。最後に、「何をしている時が一番楽しいですか?」と投げかけてみると、少し呆れたような笑顔で「サーフィンかな」と即答してくれた。

好きなことを見つけたり続けたりすることって、思っているよりも案外難しいことだ。でも花井さんを見ていると、肩肘張らずにただやりたいと思ったことを、それこそ“波”に乗るように、ただ自然に身を任せてやるだけで良いのかもしれない。他の誰でもない、たったひとりの「自分」がやる限り、道は拓けるはずだから。

INTERVIEW&TEXT: Natsumi Chiba
PHOTO:Shu Kojima

花井祐介

http://www.hanaiyusuke.com/

50~60年代のカウンターカルチャーの影響を色濃く受けた作風は、日本の美的感覚とアメリカのレトロなイラストレーションを融合した独自のスタイルを形成している。シニカルでユーモアたっぷりなストーリーを想起させる作風は国境を越えて多くの人達に支持されアメリカ、フランス、オーストラリア、ブラジル、台湾、イギリス等様々な国で作品を発表。現在までにVANS,NIXON,BEAMS 等へのアートワークの提供など、国内外問わず活動の幅を広げている。

Yusuke Hanai
"FACING THE CURRENT"Exhibition in Shanghai
23 Jan - 22 Feb 2022
Hall 5, Powerlong Museum, Shanghai, China

Tue to Sun : 10am to 6 pm
Closed on Mondays and 30 Jan 4pm - 4 Feb, 2022

HP:http://www.hanaiyusuke.com/
Instagram:https://www.instagram.com/hanaiyusuke/

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