JOURNAL

YUSUKE HANAI

前編

決めつけのない、自由な世界の絵で共感を呼ぶ

50~60年代のカウンターカルチャーから受けた影響にレトロな雰囲気がミックスされ、印象的な表情をした人物が特徴的なイラストレーションで人気を集めるアーティスト・花井祐介さん。そのクリエイティブな制作活動の根底に潜むクラフトマンシップに迫る。

点と点が繋がると、繋がるのは人と人

逗子のビーチハウス・Surfersの前身になるカフェが金沢文庫にあった高校生の頃、花井さんはサーフィンを始めたそう。そして19歳の時、オーナーが新しく「The Road and The Sky」というバーを開くことに。

「皆で穴掘って基礎埋めて柱を建てていって、DIYでお店を作ったんです。その時、看板とかメニューを作るのに絵が得意なヤツは誰だって話になって。元々落書きは好きでしたし、たまに似顔絵は描いていたので、その流れで描くことになりました」

60〜70年代のアメリカのロックポスターやCDジャケットを見ながら描いている内に、どんどん面白くなってきたイラスト。お店で働き始めて5年が経った頃、せっかくならアメリカで絵を勉強しようと、サンフランシスコのアートスクールへの留学を決めた。

「1年間だけだったので基本的なことしか学んでいませんが、毎日しっかりデッサンをしていたので、その頃が一番、絵が上手かったかもしれないです(笑)」

話し始めて数分で、冗談を言って笑わせてくれる花井さん。気さくでオープンな人柄に、アトリエのすぐ目の前に広がる海がよく似合う。そして帰国した翌年、The Road and The SkyがGREENROOM FESTIVALに出店。その時描いた看板が周囲の注目を引き、新たな縁が生まれることに。

「昔の方が60〜70年代のサーフィンイラストみたいなテイストが濃かったので、フェスに来ていたアメリカ人達と『そういうの好きなんだろ』って話で盛り上がって。その時に僕の絵を面白いって言ってくれて、それからアメリカのギャラリーで扱ってもらえるようになりました」

花井さん曰く、この時の流れは「サーファー同士のノリのようなもの」だったとか。互いの好きなものに共鳴し合って生まれたコミュニケーションは居心地が良いし、そこから生まれた人脈は長く続いていくもの。小さなきっかけと人との結びつきが、現在の国境を越えた活動へと繋がっていったのだ。


押し付けられるハッピーより、自分で作れるストーリー

花井さんの描く人物はまるで落ち込んでいるように背中が丸まっていて、眉毛が下がって悲しそうだったり皺を寄せて不機嫌そうな表情だったり、どこか物悲しさ、哀愁を感じさせる。この雰囲気はどうして生まれているのだろうか。

「例えば、自分の失敗とか恥ずかしかったこと、落ち込むことがあっても、友達と居酒屋でげらげら笑いながら話したら気が楽になりますよね。僕は“ハッピーの押し売り”みたいなものが好きじゃなくて、それよりも『誰にでもこういう時あるよね』って共感できたり、気持ちが分かり合えたりするようなものが良いなと思って描いています」

キャリア初期から「サーフアート」や「サーフアーティスト」にカテゴライズされることを嫌い、「人って色んな要素があるはずなのに、一部だけを切り取って決めつけるなんてつまらないですよね」と話す花井さん。

確かに花井さんの作品はサーフィンをテーマにしたもの、あるいは分かりやすいメッセージが読み取れる絵はほとんど見当たらない。ただある人物の、あるシーンを切り取ったものばかりで、見る人が前後のストーリーを自由に想像できる余白が残されている。つまり、「決めつけ」が絵の中に存在していないのだ。

「絵は言葉がないですし、この絵はこうだって自分で説明したくないんです。僕は口下手だから絵を描いているところもあるので(笑)、それよりも見る人が自分で考えながら自分なりのストーリーで解釈してもらえたら嬉しいです」

人が花井さんの作品に惹かれるのは、独りよがりの部分がなくて、正解もヒントもないところなのかもしれない。用意された答えをただ観るのではなく、自分で作れるところがアートの醍醐味。花井さんの話を聞いていると、そんなことに改めて気付かされる。続く後編は、創作全般について深掘りしていく。

Interview&Text: Natsumi Chiba
Photo:Shu Kojima

花井祐介

http://www.hanaiyusuke.com/

50~60年代のカウンターカルチャーの影響を色濃く受けた作風は、日本の美的感覚とアメリカのレトロなイラストレーションを融合した独自のスタイルを形成している。シニカルでユーモアたっぷりなストーリーを想起させる作風は国境を越えて多くの人達に支持されアメリカ、フランス、オーストラリア、ブラジル、台湾、イギリス等様々な国で作品を発表。現在までにVANS,NIXON,BEAMS 等へのアートワークの提供など、国内外問わず活動の幅を広げている。

Yusuke Hanai
"FACING THE CURRENT"Exhibition in Shanghai
23 Jan - 22 Feb 2022
Hall 5, Powerlong Museum, Shanghai, China

Tue to Sun : 10am to 6 pm
Closed on Mondays and 30 Jan 4pm - 4 Feb, 2022

HP:http://www.hanaiyusuke.com/
Instagram:https://www.instagram.com/hanaiyusuke/

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