今までの挑戦に無駄はない
20代前半にして人気店舗の料理長に就任し、30代前半には六本木で自身のお店を構えるなど若くして料理界の第一線で活躍を続けてきた富樫純功さん。職人としての気質と経営者としての気質を併せ持ち、料理の味はもちろんのこと、店舗の収益面でも大きな成果をあげてきました。職人としての顔と経営者としての顔。そのどちらでも成功を収めてきた影には弛まぬ向上心がありました。
料理人として、幅広い分野への挑戦
渡會:かつて六本木にご自身のお店『富がし』をオープンさせましたが、今続けていない理由は?
富樫:率直に言ってやりたいことがまだまだあったことだと思います。お店自体はおかげさまで順風満帆でした。六本木という場所柄、様々なお客様がご来店される中で、色々とお話、お誘いをいただくようになって色々と考えた結果、企業の飲食部門がどのような流れで料理をしているのか興味を持ち始めました。なので、一つのお店だけでなく新たなチャレンジを選びました。
渡會:様々な会社の経営に携わることになった経緯は?
富樫:私のお店の常連さんの中に「日光江戸村」の社長さんがいらっしゃったんですが、その方から「江戸村の中の飲食店全般を改善してくれないか」と言われたのがはじまりです。「顧問業なんて正直面白くない」なんて当時は思っていたのですが、やってみると自分が知っている世界とはまるで違うので面白い部分もありましたし、勉強にもなりました。
渡會:今はケータリングやお弁当屋の顧問業なども手掛けられていますね!
富樫:こちらも知人を介してはじめました。そちらは元々イベント企画の会社が立ち上げた飲食部門だったので、勝手が違っていて。低単価の商品でいかに利益を出すという今まで自分の料理人人生でやってこなかったことだったので勉強になっています。
渡會:海外のアーティストが来日された際のケータリングも担当されているとお聞きしました。
富樫:海外の方はビーガンやベジタリアンが多いので、和食の基本、精進料理をベースにビーガン料理を提供しています。それが、やはりなかなか珍しいみたいで、ご好評いただいています。今後、この分野でもチャレンジしていきたいなと思っています。
渡會:そうなると、素材そもそもの味も重要になってくると思うのですが、ご自身で生産されるということは考えないのでしょうか?
富樫:今のところはないですね。当然のことながら生産に関しては生産者の方が僕なんかより圧倒的な知識やノウハウを持っています。彼らも生産に関しての職人なので、プライドを持ってお仕事をされているんです。だから、生産者と料理人という職人同士、お互いを信頼し合って、自分のステージで頑張るのみです。
渡會:弊社が企画・運営するキャンプフェス「THE CAMP BOOK 2018」でもトータルフードコーディネートをお願いしています。
富樫:ありがとうございます。まだ、そこまで深くは考えていないのですが、その時期・場所に合わせたものを提供できるようにしたいですね。現場の雰囲気や環境に合ったものを提供して、思い出に残るようなものであればと思っています。
向上心を持って、常に自分を高める努力をすること
渡會:色々なことにチャレンジされていますが、どういったお仕事に一番やりがいを感じていますか?
富樫:先ほどと話した内容(前編)とは若干矛盾するかもしれませんが、利益が出る仕事よりも人に寄り添って親身にできる仕事を重視したいですね。大きな利益を出すファスト産業的なことは、やはり向いていないなと気づかされました。お金だけに特化している仕事を見ると寂しくなってしまうんです。料理人が一番嬉しい瞬間は食べてもらった相手に「おいしい」と言ってもらうこと。それが実現できない環境だと難しいですね。ただ、今まで好きなことも嫌いなことも色々なことを経験してきましたが、どれも無駄だったとは思っていません。
渡會:富樫さんにとっての“CRAFTSMANSHIP”とは?
富樫:料理人に限らず職人はすべてアーティストだと思っています。だからアート気質を備えた上で、人を満足させることが必須ではないでしょうか。いくらおいしい料理を作れても器を選ぶセンスひとつで、それをダメにしてしまうことが多々あります。極論ですが、センスやトータルコーディネート(演出力)がないと難しいのではと思っています。これもDRUMCANで培った賜物かと思います。
渡會:センスを磨くことはできると思いますか?
富樫:向上心があればできると思います。「あれがしたい、これがしたい」と好奇心、探究心があればこれからでも磨けると思いますよ。要するに常に自分を高める努力をしていることが“CRAFTSMANSHIP”なのかなと思います。
渡會:今後も様々なことにチャレンジしていくと思いますが最終的な目標は?
富樫:僕は東京出身ですが料理に関しては金沢で育てられたようなものですから大自然の中にロッジでも建てて、そこで採れる野菜だったり魚だったりで料理と空間を提供して、周りに笑顔ができることが自分の着地点なのかなと考えています。