JOURNAL

TOMOYA SATO

前編

アイメック農法で作る自慢のフルーツトマト

サラリーマンから農家に転職し、地域に根付いた活動と共に、常に新しい事を求めチャレンジしている湘南佐藤農園の佐藤智哉さん。奥さんの実家の家業であった農園を継ぎ、まっさらな状態から今の活躍に至るまでには様々な苦労や困難があったにも関わらず、それをものともせず日々農業の新しい可能性を探し続けている。そんな佐藤さんのクラフトマンシップに迫る。

湘南佐藤農園は、フルーツトマトをはじめ、トウモロコシ、ブロッコリーなど、約20品目の野菜を栽培している。そこで一番のシェアを占めるのはアイメック農法で作るフルーツトマト。まるで果物のような高糖度が評判となり、連日多くの注文が殺到している。

そのトマトの魅力をさらに多くの人に伝えるため、2021年4月から、キッチンカー「畑のキッチン」を開始。キッチンカーの中で溶岩石を使用した窯で焼きあげる本格ピザは大好評で、湘南佐藤農園の自慢のトマトの甘さを存分に味わえる。

農家といえば、承継してきた技術や土地を守り、同じ手法で受け継いだものを栽培するという我々のイメージを佐藤さんが良い意味で覆してくれた。

というのも、元々はサラリーマンとして農業とは全く別の分野で従事していたところ、結婚を機に何の知識も持たないまま農業の世界に飛び込んだのだという。

トマトの美味しさを最大限に引き出すピザ販売をスタート

屈託のない笑顔と、探究心旺盛で子供のように真っ直ぐな気持ちをそのまま大事にする姿に我々もすぐに魅了された。そして取材時に振る舞っていただいたピザはこれまで食べたどのピザより味が濃く、大地の恵みを感じる事ができた。

「どうしてだろう?」「どうすればもっと良いものが作れるんだろう?」という疑問の答えを探し続けていく佐藤さんの姿勢には子供の純粋さと大人の冷静さが混在している。

 

婿養子として飛び込んだ農業の世界

「2009年頃から農業を始めました。当時付き合っていた彼女(現在の奥さん)の実家の家業だったんです。奥さんは4姉妹で男性の跡継ぎが居なかった。だから付き合っている当時から、将来は自分がこの農園を継いでいくのかな? というような予感はありました。結婚のタイミングで婿に入り、義理の父から一つずつ仕事を教えていただく形で、農業をスタートしたんです」

「サラリーマンとして働きながら、土日になると彼女の家の仕事を手伝っていて。それが全然嫌じゃなくて、むしろ楽しんでやっていましたね」

そんな佐藤さんの土日限定の「家業のお手伝い」は2,3ヶ月かけておよそ300坪のビニールハウスのビニールを剥がすというもの。「お手伝い」というには、とても過酷な印象がある。

「全部1人でやり遂げましたよ。屋根に登って。本職が休みの土日だけ使って。今から思えば、お義父さんから試されていたんだと思います。『娘を嫁に出す前の試練』のような。何回か屋根から落ちたりしても、なんとか最後までやり遂げました。途中で投げ出したりしたくなくて。もしかしたら…想像ですけど…、そういうところをお義父さんは認めてくれたのかもしれません」

 

残してくれたものを受け継いでの再スタート

「2011年9月には大きな台風の被害を受けました。800坪ほどあったビニールハウスがすべて飛ばされて。被害総額は大変深刻なものでした。収入も無くなってしまい、その時はサラリーマンに戻ったんですけど、2014年に農業について色々教えてくれたお義父さんが亡くなり、そこで跡継ぎとして戻ってきました」

「2015年にアイメック農法を取り入れました。色々な農法を調べていた時期に、ドバイの砂漠でこの画期的な農法を実践して成功を収めたと、とあるテレビ番組で紹介されていたんです。砂漠ですから、水もなく、通常の6分の1の量の水でトマトを作っていたことに衝撃を受けました。

更には『廃液がないこと』『地球にも優しいこと』『かつ美味しいこと』が分かり、導入を検討しました。当時は凄く少なかったのですが、既にアイメック農法を導入している農家に実際に見て調べるために、自分の目で確認しに何度も足を運びました。導入費用も決して安いものではなかったんですが『これしかない!』という気持ちが強く導入を後押ししました」

アイメック農法とは、特殊なフィルムを引いて、下に肥料を流し、根に制限をかけ、トマトにストレスをかけて甘くする技法のこと。

根が求める養液だけを供給し、根域を制限し灌水(かんすい)を極力控えることでトマト本来の生命力を引き出すことができるという。必要最小限の養液しか与えないため、トマトは養液を求めて根を張り巡らし、栄養を蓄えようと努力することで、たくさんの糖分やアミノ酸、ビタミンが凝縮されて蓄えられ、味が濃く甘い実になるという仕組み。

やがて身体になり命になる「食べ物」

「トマトが生き残るために必死になるんですよ。子孫を残すために。実はトマトは植えてから最初の実がつくまでにできる葉っぱの数は7枚と決まっているんです。それ以降は葉っぱ3枚につき、1個の実ができる仕組みなんです。規則性があるんですよ」

佐藤さんはその他にも次々と農業に対する様々な知識を惜しげもなく披露してくれた。この仕事が好きで好きでたまらないという風に。そんな佐藤さんの姿を見て、今後の日本の食料に対する付加価値を再認識した。大地に根付いた宝石のように輝く作物を見て、本来人間が食べるものはこういうものなんだと強く実感をさせてくれた。

後半では、佐藤さんが自慢のトマトを使ってキッチンカーを始めた理由、今後の目標などについて更に深くお話を伺っていく。

INTERVIEW:Daisuke Udagawa(M-3)
TEXT: Yumiko Fukuda(M-3)
PHOTO:Fumihiko Ikemoto

佐藤智哉

http://www.satonouen.jp/

湘南佐藤農園〜土作りからこだわった湘南の野菜〜
神奈川県藤沢市亀井野2818-3
TEL 0466-53-8074
FAX 0466-53-8140
@shonan_sato_nouen

佐藤智哉 1979年生まれ、神奈川県藤沢市出身。大学を卒業後、営業職などに就く。2014年、結婚を機に佐藤農園を継ぐ。湘南の若い世代の新しい農業家兼、実業家として注目を集めている。
藤沢市認定農業者
藤沢市援農ボランティア育成講座講師
農地利用最適化推進員

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