JOURNAL

MASAHIRO KAWAKAMI

前編

時代に馴染んだモノ作りを追求

使えば使うほどに、その人に馴染んでいく。そして、古くから日本人の心に深く根付いている「手ぬぐい」。浅草で親子三代にわたって、それを作り続けている職人がいる。浅草は浅草寺の目と鼻の先にある老舗手ぬぐい店「ふじ屋」。ここの手ぬぐいは、一点一点がふじ屋の職人が描いたオリジナルデザインによるもの。受け継がれた伝統を守りながらも、その時代に合わせた提案が常に新鮮に映る。今回は、そんなふじ屋の三代目を務める川上正洋さんのクラフトマンシップに迫ってみる。

本気でこの世界で生きていく

─初代、二代目、そして川上正洋さんが三代目となる「染絵てぬぐい ふじ屋」ですが、現在までの経歴を教えてください。
川上:東京は台東区、浅草生まれです。物心ついた頃から手ぬぐいは常に側にあって、生家はお店のすぐ2階でした。親からは特に『将来は家業を継いでほしい』とも言われることなく、小学校の卒業文集には、自然と『将来は手ぬぐい屋さんになる』と書いていました。

高校卒業後、4年生の大学へ通いながらデザイン系の専門学校へも通い、卒業する頃には、祖父と父、私の三人でそれぞれの手ぬぐい作品を展示する三人展を開こうと計画していました。けれども、その頃に初代(祖父)が亡くなり、祖父が不在のまま個展を開きました。

この時に初めて自分の作品を作ってみて『本気で、この世界でやっていこう』と強く覚悟を決めました。現在、現職について17年目になり、二代目(父)と共に職人としてふじ屋の経営を担っています。

 「ふじ屋」が生み出す唯一無二の手ぬぐい

─川上さんの主なお仕事内容を教えてください。

川上:私は手ぬぐいに使われる絵柄の図案(下絵)を描いています。

うちは代々名前を入れない『注染染め』という手法をとっていて、手ぬぐいのすべてを『ふじ屋』として販売しています。手ぬぐい作りには、図案を描く職人、型をとる下絵師、手拭いを染色する職人さんといった、大きく分けて3つのプロセスがあります。ふじ屋は代々図案を描くことを生業としています。

基本的に多くの手ぬぐいがオリジナルデザインですが、江戸時代の江戸天明をはじめとする貴重な柄の復刻なども手掛けています。

─ふじ屋さんの手ぬぐい作りのこだわりは何ですか?
川上:古い手法を守りながらも、現代で求められているエッセンスを入れるようにしています。

私自身、毎日必ずお店に立って接客をする時間を設けていて、お客さんの様子や人気がある商品の傾向をチェックするようにしています。奈良時代に生まれ、江戸時代から生活必需品とされた手ぬぐいですが、当時の発想はとてもモダンで現代に通じるものがあります。

それらの復刻品も含めて、背景にある物語と共にお客様へ手ぬぐいを提供することをこだわりとしています。

─川上(正洋)さんでふじ屋の三代目になるわけですが、先代からの教えで特に印象深いものは?
川上:モノ作りは『自由でいい』と言われたことが、今でも強烈に印象に残っています。『テーマは何でもいいし、表現したいものを自由に描けばいい』ということです。うちの手ぬぐいは35×90~110cmで仕立てていますが『表現したいものがあるなら枠からはみ出していい』とも。

ただ最初の頃は、描いたものを父に見せるたびにダメ出しばかり。その後何度描いても全然採用には至らなかった。そんな時期が長くありましたので、『自由』というものは本当に難しいと思いました。できれば、手取り足取り教えてもらいたかったのですが、職人の世界はそんなに甘くなく。

ある日、父にどこがダメなのかを詳しく問うと『手を加えすぎないことが大事』というアドバイスをいただきました。手ぬぐいの絵や柄を見たお客さんが、色々と想像ができる余地を残す方がいいと。

『絵で説明しすぎない、余白が残る表現が大切』とも。毎日使う手ぬぐいだからこそ生活に溶け込むように。使う人それぞれが想像を膨らませて、そして特別な意味を加える。そうすることで、より愛着を持ってもらえるようなデザインが長く愛される手ぬぐいになる、ということを教わりました。

手ぬぐいの柄には、必ず意味があると川上さんは語る。「ふじ屋の店舗の暖簾に描かれた柄には、あいうえおの『い』が10個あって、その中心に書かれている文字が「し」。その文字を藤の花に見立てて「いとおしい(愛おしい)」という意味を含んでいます。」と川上さん

「手ぬぐいのある生活」を当たり前に

─特に馴染みの薄い若い人たちへ手ぬぐいの楽しみ方を伝えるとしたら?
川上:基本的には、手や顔を洗った時の水や汗の拭き取りに使うハンカチやタオルと同じものです。または、手ぬぐいでお弁当箱を包んで使うこともおすすめしています。食卓や花瓶の下へ敷いて楽しんでいる方もいます。

最近では柄や色彩の豊さや四季を感じるデザインが多いことから、コレクションしてくださる方も。中には、芸術的な価値を感じて額に入れて飾ってくださる方などもいます。そして、浅草へ来たお土産として購入してくださる観光客の方々も多く見られます。

元々手ぬぐいには、型式ばった使い方はありませんので、持つ人がそれぞれ自由に楽しんでいただければ、それが理想です。けれども手ぬぐいの使い方を聞かれてしまううちは、まだ自分たちの努力不足だなと。いずれは誰もが手ぬぐいのある生活を送るようになる、それが当たり前にならないと。

─伝統を守りながらも、現代に寄り添ったアプローチで手ぬぐいにおける新しい価値を追求する川上さん。後編では昨今の「ふじ屋」のターニングポイントや三代目が成し遂げたいことについて、さらに深いお話を伺っていきます。

INTERVIEW&TEXT&PHOTO: Daisuke Udagawa(M-3)

川上正洋

https://tenugui-fujiya.jp 

染絵てぬぐい ふじ屋
三代目 川上正洋

1984年生まれ、東京都出身。1947年に浅草で創業し、三代にわたる「染絵てぬぐい ふじ屋」の職人。2007年に父である二代目の千尋氏に師事。「江戸モダン」をコンセプトにした自由なアプローチからなる手ぬぐいを中心としたプロダクトの展開で国内外に多くのファンを持つ。 
https://www.instagram.com/tenuguifujiya/

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