JOURNAL

MASAFUMI ONO

後編

僕は“そこにあるもの”を作りたい

ウォールハンギングブランド<Wood & Knot.>を主催する気鋭のマクラメ作家、小野正史さん。マクラメとの出会いからその魅力に迫った前編に続き、後編となる今回は作り手としてのクラフトマンシップに迫る。

使う素材は自然に還るものだけ

「実際に作ってみましょうか」と、ロープを手に取る小野さん。「ニットは編み込むじゃないですか。マクラメは結ぶので、ちょっと違うんです。こうやって結び目を作りながら形をつくっていく。結び方や力の入れ方、そのバランス次第で形や造形が生まれていくんです。」

流木にくくりつけられたロープがうつくしい模様を描いていく。使う素材は基本的にはロープと流木だけとシンプル。どれも木や繊維のナチュラルな色合いだ。そこには小野さんのライフスタイルに裏付けられたこだわりが垣間見える。

「僕自身、自然の中で遊ぶのが好きで、毎週のように山に登っています。それもあって、自然に還らないものは使いたくないんです。それに、工業的に再現できないものを作りたいのもあって、金属や人工物より、木や骨という自然の造形物に惹かれるんですよね」

 

思ったとおりにいかない方が面白い

人工物を使わないだけでなく、小野さんの制作過程にはもうひとつルールがある。それは、「作る前に完成像をイメージしない」ということ。設計図もデザイン画も一切なく、感覚的に作っていくという。

「たとえば流木なら、木の形にあわせて作品の形が決まっていくというか。作りながら考えていくので、自分でも想像できないものが生まれるんです。だから同じものを作って欲しいと言われるとすごく困る(笑)。作ってみるまで、どんなものができるか自分でもわからないんですよ。勝手に波打ってきたり、立ち上がってきたりして「ああ、こうなるのか」って。思ったとおりにいかないのが、面白いんです」

 

特別なアートより、日常になじむものを

 

小野さんの作品は小さいものなら1万円を切る値段。「どうして、こんなに安くするんですか?」そう聞いてみると、「気負わずに、気軽に買ってほしいんです」と、言う。

「アーティストの作品だと、数十万円とかしたり、日本の家には大きいものも多いんです。かっこいいんですけど、僕自身マクラメの壁飾りが欲しくても、気軽に買えるものが見つからなかったという経験から始まってます。だから僕は、特別なアート作品よりも、日常に馴染むものを作りたいんです。実家の玄関に木彫りの熊が置いてあるみたいに、そこにあるものっていうか。違和感なく日常に馴染むものとして」

 

例えば日本の伝統的な文化であるしめ縄や正月飾りも、お祝いの封筒に結ぶ「水引き」も、広く捉えればマクラメの一種だと言える。考えてみれば、僕たちの生活の中に、マクラメ的なものはずっと昔から存在していたのだ。

 

「現代の暮らしにマッチするしめ縄や正月飾りがあれば、日本的なものに興味がなかった人も“ちょっと飾ってみようか”と思うかもしれないですよね。ファッションやインテリア的な視点でマクラメを手に取り、そこから日本の文化まで掘り下げていってもらえれば嬉しいですね。家や玄関を飾るって、素晴らしい日本の文化だと思うから。僕自身も作品を通して、知らない人や文化に繋がっていくのが楽しくて」

「まあ、たまにストレス発散で、アート作品のような変なものも作りますけどね(笑)」

そう言って小野さんは笑う。アートと日用品の間の絶妙なところを行き来する小野さんのマクラメ作品。それは僕たちの日常を、ちょっとだけ、でも確かに特別なものにしてくれる。

TEXT:Masaya Yamawaka (1.3h/イッテンサンジカン)
PHOTO:Fumihiko Ikemoto(PYRITE FILMS)

小野 正史

https://www.instagram.com/woodandknot/

1975年生まれ。車の整備士として働いたのち、セレクトショップに転職。アパレル企業勤務の傍らマクラメ作家として活動、ウォールハンギングブランド「Wood & Knot」を手がける。2017年、ビームスプラネッツ横浜で初となる展示販売を開催。現在も年に2回のペースで同店にてマクラメ作品を発表。マクラメ作りのワークショップや展示の情報は小野さんのinstagramをチェック。

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