JOURNAL

KOTO MIYATA

後編

現代を知り、伝統をつないでいく

歴史深い伝統工芸からなるプロダクトとアート作品で多くの人を魅了する宮田 琴さん。後編では、宮田さんのモノ作りに対峙する姿勢についてさらに深掘りしていく。そして今後の展望や夢についても伺った。

 

 

--アート作品とプロダクト制作の両立は難しいものですか?

宮田:元々は大学時代から、鍛金でのアート作品作りをメインの活動としていました。大学を卒業する頃にある職人さんとの出会いあり、一緒に作品を展示する機会に恵まれました。そんな展示会を機に、アートとプロダクトの融合について考えるようになりました。

その後、東京都が運営するプロジェクト「東京手仕事」で紹介されたことがきっかけで多くのお問い合わせをいただき、皆さんにアートを身近に感じてもらう良いきっかけとなりました。自分で直接販売ができ、自分の思いをしっかりと伝えていけることからも、日常的に使えるプロダクト制作の魅力に気がつくことができました。コロナ禍では、オンラインでの販売が盛んになり、ちょっと前までは「伝統工芸品はインターネットでは売れない」と言われていましたので、上手く時代の流れに乗ることができました。

宮田さんの代表作である「ハートのぐい呑み」(写真右)。大変人気のため、受注制作によるもので、愛らしいハートのフォルムと銅の淡いピンク、丁寧な手作業による鎚目模様に心奪われる逸品。お酒やお料理の時間を一層華やかに演出してくれる。

真鍮に金鎚で模様を拝したピアスも人気。存在感のあるデザインと温かい温もりを感じるハンドメイド感が好評。

--作品のモチーフとしてキュートなものが目立ちます。どのようにモチーフを決めていますか?

宮田:プロダクトにしてもアートにしても、モチーフを探すときに「温かいものや柔らかいもの」に惹かれる傾向があります。元々は植物をモチーフに「生命体」をテーマに作品作りをしていました。今では動物をモチーフとした作品が多くなりました。動きのあるもの、生きていく姿、そんなものを形にすることが好きです。あとは個人的にはピンクが好きで、私のテーマカラーでもあります。今では、作品も身の回りもピンクのものが増えていって、髪の色までピンクになってしまいました(笑)

伝統工芸をもっと日常的に

--この鍛金のお仕事をしていて、一番嬉しい瞬間は?

宮田:「鍛金=伝統工芸品」と聞くと、ちょっと敷居が高い印象を受けると思うのですが、工芸品はもっと身近なものだし日常的に使えるものだということを伝えていきたく思っています。その結果、以前記念日に奥様へ贈るものとして食器を購入してくださったお客様がいらっしゃって。後日喜んでいる奥様の様子を写真に撮って送ってくださり、大変感激してことがありました。コーヒードリッパーを購入してくださったお客様は、入院しているお父様のもとへ持っていき「これでコーヒーを淹れてあげたら、お父さんが元気になった」と教えてくださり。そのように、自分が作ったものが誰かのもとへ届き、人と人との大切なコミュニケーションのきっかけになった瞬間は、喜びもひとしおです。気持ちを込めて作ったものが、誰かにとって特別な付加価値となり、人の心を動かす、または背中を押してくれるような存在になってくれたら。そして私の作品を通して、そこに愛が生まれた時が最大の喜びであり、職人冥利に尽きます。

--今後の展望や夢はありますか?

宮田:思わず使いたくなる生活に必要な工芸品って何だろう?と常に考えています。ものが溢れているこの現代で、心が通うものって何だろう?と、そんなことをいつも自問自答しています。鍛金というモノ作りで、誰かの大切な思い出の中にあって、心の充実になるような。そして、作品を通して多くの人たちの生活がもっと明るく豊かになっていただく、それこそが私の夢ですね。

--宮田さんにとって、クロフトマンシップとは何ですか?

宮田:ありきたりかも知れませんが「伝統を伝えること」。それには現代のことをちゃんと知っておかないといけないと思っています。現代を知って、現代の人たちに伝わる方法や作風とかを考えることが大切。そんなモノ作りから生まれる魂が強くマッチした時に、人の心が動くものだと思います。これからも、生活に基づいたモノ作りというところはブレずに、その時代に合った美意識を作品に反映させていきたいです。今後も「伝統から現代へ」、この相反する事への挑戦を続けていくつもりです。

宮田さんは、2023年5月20日(土)〜7月17日(祝)まで新潟、佐渡に伝わる宮田家の歴史をふり返る展覧会に出品。

雪梁舎設立30周年記念
Miyata ―金工 宮田家のはじまりから、その先へー
期間:2023年5月20日(土)〜7月17日(祝)
場所:雪梁舎美術館 新潟県新潟市西区山田451
TEL:025-377-1888
HP:https://www.komeri.bit.or.jp/setsuryosha/

INTERVIEW&TEXT&PHOTO:Daisuke Udagawa(M-3)

宮田 琴

https://koto-miyata-tankin.com

アトリエ鍛 〜たん〜
金工作家 宮田 琴

1976年生まれ、東京都出身。武蔵野美術大学(工芸工業デザイン科)を中退後、東京藝術大学美術学部(工芸科)へ入学。修了後、同校の大学院、研究生などを経て独立し「アトリエ鍛 〜たん〜」を設立。2005年、専門学校「ヒコ・みづのジュエリーカレッジ」の非常勤講師に就任。2009年には、江東区伝統工芸会(現・日本伝統工芸美術会)の会員となる。2014年、「女子学院」の非常勤講師に就任。第22代文化庁長官を務めた宮田亮平氏を父に持つ。

インスタ>https://www.instagram.com/koto.tankin/?hl=ja

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