JOURNAL

KOHEI YOSHIDA

後編

過程にある「自由」と「遊び」を大事にできるメンバーと共に

元々はカフェでのアルバイト業務のひとつから始まったチョークアート。やがて、それが仕事となり表現ツールとなり、仲間が増えた。そんな「チョークボーイ」こと、吉田幸平さん。前編に引き続き後編では、そのクラフトマンシップの真髄、そしてこれからについて伺った。

自分にしかできないことには価値がある

アルバイトをはじめたカフェで正社員となり看板を描きながら、お店のグラフィックやデザイン関係の仕事を多く任せられるようになってきていたという吉田さん。

その後、次第にアーティストとしての独立を考えるようになったという。自由な時間を持ちたくなり、社員からアルバイト勤務に雇用形態を戻してもらい、「自分にしかできない仕事」としてチョークアーティストの活動を続けていた。

「でも、アルバイトとして働くことにも限界を感じはじめたんです。時間がいくらあっても足りなくて。『自分の時間を買い戻す』という気持ちが生まれてきて、スタッフを雇って会社としてこの仕事をやっていこうと次第に思うようになってきたんです」

その後、アルバイトとしてではなく、自分のアーティスト活動としての単価や報酬をきちんと決め、元々いたカフェとは就業形態を変えての付き合いとなっていったという。

「自分の時間が増えて、安定した収入もあることで、あんまり営利目的にならずに活動ができたんですよ。自分の本当に描きたい場所に描いたり、モチベーションがあるので『描きたい』と思ったお店に直接自分で交渉しに行って描かせてもらったり。そこで、それを見た方から『うちでも描いて欲しい』という次の依頼が来て、点と点が線になって仕事が次々と繋がっていくような感覚でした」

その後、作品が有名になっていくうちに「教えて欲しい」という人たちが続出し、ワークショップを開くようになったという。

理想と現実の溝を埋められる、そう気付いた

「英語圏の国や地域では、カフェの店員が何気なく描いた文字やメニューが母国語なこと、描き慣れていることもあり、自由でカラフルで個性的なのに比べ、日本ではその習慣や歴史がなかったんですよね。通常のカフェオーナーが思い浮かべる自分の店のヴィジョンとしてお店のメニューも『1つの作品のように洗練されたオシャレさ』を想像していたものの、

いざ何の知識も無い日本人の店員には『目を惹くけど読みやすく、それでいて且つオシャレ』な文字のレタリング技術がなく、そこでオーナーとスタッフとの間に溝が生まれる。そんな時に、その溝を埋められるのが僕らの仕事なんです。

だから欧米的なカフェが増えて需要が高まってくる時期と自分の仕事がマッチしたというか」

吉田さんが開催すえるワークショップはいつも大盛況で、かつてそのワークショップを受けた3名が現在社員となり、吉田さんの活動をサポートしている。

「皆それぞれのバックボーンも違うし、今まで経験してきた職業も違うんですけど、僕の作品に興味を持っていてくれて好きでいてくれているということだけが共通しています。

自己ブランディングでガチガチに固めている人もいると思うんですけど、僕の場合はどっちかというと、柔らかくって。それが作風にも、出ているのかなっていう気がしますね。そういう『柔らかい』ところを好きでいてくれている人が周りにいるのはありがたいことだと思っています」

仲間と共に、描くことを通じて伝えられる「何か」があると信じてチョークをはしらせる日々だという。「黒板のあるところなら呼ばれたら世界中どこにでも描きに行きます!」と目を輝かせながら話してくれた。

仲間と共に、今後の活動は世界へ向けて

「今後は、やりたい仕事など勿論あるんですけど、1人じゃなくてチームでやれたらいいなと思います。チームの良さって、色々ありますけど、僕が思い描いている理想は、1人1人の作風は違うけれども、トータルで見ると流れを感じるというか、何か結束のようなものが分かるのが良いなって思っていて。そういう事を今後は集団として続けていけたら良いなと思うんです。仲間と過ごした時間が集団の結束力を高めてくれるというか、それが作品に現れることが理想」

最後に「どんな人がクロフトマンシップとしての素質があると思いますか?」と聞くと。

「僕が思うクラフトマンらしさというのは、モノ作りのプロセスを楽しめるかどうかと思います。モノができ上がっていく過程には、大きな分岐点がいくつかあって、その楽しさに気づくかどうか。結果だけを見るのではなくて、その途中で立ち止まって、『創る』こと自体に純粋な気持ちで向き合っているか、楽しいと感じてやれているか。それが、この仕事の醍醐味だと思っているんです。」

プロセスをないがしろにして結果に早くたどり着くことには興味がない。きちんとしたプロセスを踏んでやっていくことを何よりも大切にしている吉田さん。

今後も、志を同じくした仲間と共に、世界のあらゆる場所のあらゆる場面に相応しいものを、限られたキャンパスの中で最高の自由を手に入れながら彩ってくれるに違いない。

INTERVIEW:Daisuke Udagawa(M-3)
TEXT: Yumiko Fukuda(M-3)
PHOTO:Fumihiko Ikemoto

吉田 幸平

チョークグラフィックアーティスト
吉田 幸平(チョークボーイ)

1984年7月生まれ、大阪府出身。
@chalkboy.me

大阪市立工芸高等学校ビジュアルデザイン、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ (Central Saint Martins)でアートを学ぶ。帰国後、アルバイト先のカフェで描いていたメニューボードが人気を呼び、“チョークボーイ”としての活動を始める。その後、2015年に開催した個展をきっかけとして全国へ知れ渡り、飲料メーカーのイメージビジュアルなどにも採用されたことで知られている。並行して行なっている料理する時の音をサンプリングして即興で音楽にする独特の音楽活動では、KENTO MORIなどとのコラボレーションをする異色の経歴を持つ。

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