JOURNAL

KOHEI MAKITA

前編

本当にいいものを多くの人に届けて、すべての人を笑顔にしたい

3回目を数える今回の“CRAFTSMANSHIP”は、大阪をベースに活動する「THE UNION」の長・牧田耕平さんがゲスト。元アパレル出身という施工集団”ORGAN CRAFT”を率いる渡會竜也と旧知の仲でもある。自身が手がける“その生地でその構築”をコンセプトとする「THE FABRIC」を筆頭に、それぞれのプロフェッショナルがタクトを振るう計7ブランドをまとめる氏。“アパレルエンターテイナー”を自称する牧田さんが考える“CRAFTSMANSHIP”とは?

キャリアのあゆみ

渡會:耕平さんお久しぶりです。この度はよろしくお願いします。
牧田:めっちゃ久しぶり。こちらこそよろしくお願いします。渡會くんちょっと太った?
渡會:耕平さんと数年ぶりにお会いする間に20キロほど大きくなりまして(笑)。今回は弊社のサイト内でその道のプロにお話をうかがって“CRAFTSMANSHIP”をテーマとした対談を行っているんですが、まずは耕平さんが洋服の世界に飛び込んだきっかけを教えてください。
牧田:製菓の専門学校に通っていて、卒業後に半月くらいパティシエとして働いていたんです。単純な作業が続いて「19歳でこの仕事か……」と思えるほど過酷で。お菓子の道はおじいちゃんになってからでもええかなと思ったのと、アメカジの洋服が好きだったので、大阪発デニムブランドのFULL COUNTで働くことになったのがキャリアのスタートですね。
渡會:そこから東京へ?
牧田:FULL COUNTで2年くらい働いた後、Onegramの人に出会って、縁がありその会社でお世話になることに。そこから3年後にMOTIVEがスタートしました。Onegramに入社したときは5人くらいだったのに、気づけば50人ほどの会社に成長して。自分の中でもやり尽くした思いがあり、地元に戻ろうと決めて2009年に親父が運営する鉄工所の一角でTHE UNIONをスタートしました。

スタッフ、ディーラーだけでなく、お客様まで
周囲の声に耳を傾けるものづくりへのこだわり

渡會:そのTHE UNIONを手がける上で重要視されていることは何ですか?
牧田:“古き良きものを愛し、新しきものを作る”という理念を持っていて、自分がこれまで通ってきたアーカイヴに今の気分や新しいエッセンスを盛り込むのがベースです。その中でもウチらしいと思えるのがパターンと素材。動きやすくて快適に着られる洋服というのが大前提なんです。
渡會:そこが耕平さんが考えるオリジナルですか?
牧田:そうですね。資料をかき集めるのではなく、何も見ずに直接絵型に描き込むのが好きなんですよ。例えばジーンズを作り始めたオリジネーターと同じような考えで、自分の中の感覚で物を作ることを大事にしていますね。それと重要なのは周りの人の意見。THE UNIONはお客さんに対してアンサーを出す形で物を作っているのも基本概念なんです。ウチのスタッフやディーラーさんの意見だけでなく、実際にTHE UNIONの洋服を着てもらっている方にも積極的に話をして、その意見をフィードバックしていますね。
渡會:周りの意見に耳を傾けて完成した、2017年F/Wの象徴的なアイテムって何ですか?
牧田:ロング丈のダウンですね。なぜ膝下までのレングスかというと、単純に暖かいから。サッカーの監督が着るコーチジャケットもキャッチのお兄さんが身に付けるコートも全部ロング丈でしょ? 定番として出しているのがショート丈だったんですが、色々な意見を聞く中で「ロングにしたほうがもう一発あったかいやろな」と。ベースはミリタリーの要素を盛り込んでいるので、ウチらしい男っぽい雰囲気で着てもらえるかと思います。ディスカッションの中で新しい物が生まれるので、流動的に新作が登場していくのも特徴的かな。
渡會:耕平さんが理想とするブランドってあるんですか?
牧田:実は自分の中でUNIQLOがそれなんです。日本の最先端かなと。THE UNIONにも通じるのですが、やっぱり愛があるんですよね。温かみのあるテレビCMを流したり、めっちゃ寒い日にヒートテックの広告を配ったりと、「そりゃヤラれるわ」と思いますもんね。僕もチラシをもらったら次の日にヒートテックを買いに行きたい気持ちになるし。それを毎年やってるのが素晴らしいですね。
渡會:それは意外でした。ベースの部分は同じ“愛”なんですね?
牧田:お客さんのことを考えて物を作るという点では僭越ながら同じじゃないかと思っています。ウチの場合は着ててラクで、その次にオシャレを楽しみたいという方が多いような気がします。お客さんから「このアウターは中にフードが着られへんかった」とか「もっと腕周りが動きやすいほうがええ」というダイレクトな情報を大事にしているからこそ、リアルな洋服が作れているのかなと。

渡會:耕平さんが考えるリアルな洋服というのは常にお客さん目線なんですね。
牧田:一回袖を通したら、次も買いたいなと思ってもらえるような物を作るのが理想なんですよ。細かな話をすると、袖をあげた時にアンダーウエアが顔を出さないようにアームを太くしたり、Tシャツ一枚でも着たときに真っ直ぐに見えるよう後ろをやや長くしたりと、「着て動いてナンボ」という考えがあります。もちろんタフな生地を使っているので、経年変化で風合いなんかも出てきます。ユーザーと一緒に歳が重ねられるという物語が生まれる服を作りたいなと。「毎日着てまうねんなぁ」と、着こなしのどこか1点にTHE UNIONを入れてもらえれば嬉しいですね。

後半は牧田さんが考える20年後の構想をお聞きします。

TEXT:Shohei Kuroda
Photo:Shimpei hanawa

牧田 耕平

http://theunion.jp/

プロフィール:THE UNION 長。1975年大阪府生まれ。桃山学院大学を卒業後、FULL COUNTで企画、デザインを担当。その後Onegramに入社、1999年にMOTIVEを立ち上げ、ディレクターに就任。2009年から大阪に活動拠点を移し、最強の”THE”を冠した複数のブランドで構成される「THE UNION」を立ち上げる。

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