JOURNAL

KEN SASAKI

前編

料理人の目でお茶を知るといろんな疑問が出てきたんです

神奈川県藤沢にある「茶来未」。史上初めて、世界緑茶コンテストで二度の最高金賞を受賞した茶師・佐々木健さんが手がけるお茶の製造所です。
日本文化としてのお茶の伝統を継承しながら、型破りなチャレンジを続ける
“世界一の茶師”。そんな佐々木さんをORGAN CRAFT代表渡會が訪ね、そのクラフトマンシップに迫ります。

「まずは更衣室で白衣に着替えて、エアシャワーに入りましょう」。

白衣にエアシャワー? ORGAN CRAFTチームを製茶工場に案内してくれる佐々木さんから出た意外なワード。手仕事の作業場のようなものを想像していた僕たちは、ちょっと面食らった。

藤沢にある「茶来未」は茶師・佐々木健さんが手がける日本茶の製造工場と販売店。丹沢山麓に自社茶園を持ち、生産から製造販売まで一貫して自分たちの手で行なっている。その中で佐々木さんのこだわりのひとつ(この後知ることになるけれど、佐々木さんのこだわりは細部まで本当にたくさんある)が、食としての安全性なのだ。

「換気システムは図面から描いてオリジナルで開発しました。エアコンに何重もフィルターを入れて、イオンクラスターを採用しているので、微生物や細菌が入る余地がないんですよ。無菌状態のクリーンルームですから、この部屋にいると花粉症が止まりますよ。お客さんの手に渡るものを作る場所ですから世界で一番きれいな現場を目指しています」

内装施工集団ORGAN CRAFTを率いる渡會も「お客さんが見てると思って仕事するっていうことですよね」とうなずく。「僕たちの内装施工でも、例えば現場で喫煙したら一発アウトですし、安全や品質の管理は徹底しています。現場は僕たちのものじゃなくてお客さんのものですからね」

 

料理人から1年で世界一の茶師へ

佐々木さんがお茶業界に入ったのは2006年。2008年に自らのお店を鎌倉にオープンし、その1年後には世界緑茶コンテストで最高金賞を受賞。“世界一の茶師”に輝いた。徹底的な安全と品質へのこだわりの背景には、佐々木さんのキャリアが関係している。

「僕はもともと中華の料理人でした。店舗もいくつか出してそれなりに成功していたんです。そんなとき、製茶工場の社長と仕事をすることがあって『あなたの感性でお茶を仕上げたらどうなるのだろう』と言われて。それで、お茶の世界に興味を持ったんです」

そうして料理人から茶師の道に入った佐々木さん。渡會も「異業種の視点が、新しい発見を生み出すことって多いですよね」と言う。

「そうなんです。料理人の視点からお茶作りを学ぶと、色々な疑問が出てきたんですよ。安全性もそうですし、作り方や品質についても。そういうこともあって、食としての安全性を徹底し、焙煎法も“十二微細分類製茶法”というオリジナルの手法を開発したんです」

十二微細分類製茶法とは、通常6種に分類する茶葉を、12種類に分けてそれぞれの部位に適した焙煎を行うという、途方もなく手間のかかる手法。それ以外にも佐々木さんは色々な提案やチャレンジをしていて、例えばお茶を熟成させるというものそのひとつ。

「通常の製茶メーカーは、摘みたての新茶を加工します。でも僕は茶葉によっては3年4年熟成させています。摘みたてが美味しいものもあれば、ワインのように寝かせて美味しくなるお茶もあるんです。それは茶葉の匂いと触った感じでわかりますね」

 

最新の機械と古い道具、両方の良さを

手洗いと消毒を済ませ白衣とマスクに着替えた僕たちは、腕時計やアクセサリーを外し、佐々木さんに続いてエアシャワーを通過する。こうしたたくさんの工程を終えて、やっと製茶工場の中に入れるのだ。この安全管理の徹底は、改めてすごい。

工場内は、レトロフューチャーな大きなマシンがずらりと並ぶ。「このボタンにメーター、こういう機械は少年心をくすぐられます」と渡會。佐々木さんも「僕は機械オタクでもありますから」とにやり。

「これがドラム式乾の焙煎機で、独自で改造したものです。僕のやり方は特殊で焙煎に30分かけます。例えば料理で言えば、大根はいきなり煮ても味がつかないんですよ。一度下湯でしないと味が染み込んだ煮物ができない。お茶も同じでいきなり強い火を入れるとだめ。最初の15分でお茶の原料をニュートラルな状態にして、残りの15分で狙っている味、香りまで調節します」

中華は火を操る調理だという。そこが「火入れ」が味を決めるお茶と共通するところで、佐々木さんの料理人としての知見は、お茶づくりのいたるところに活きている。すると、渡會が何かを見つけた。「機械に昔の道具が組み込まれているんですね」。見ると、最先端の機械が古い木の道具を揺すっている。

「今の機械より昔の道具の方がいい局面もあるんですよ。これは50年くらい使っている昔ながらの製茶道具。茶葉はカッターでも切れるんですが、粉砕気味になって味が違ってくることもあって。食材や調理法によって包丁を使い分けるみたいに、機械がよし、手作業がよしということを使い分けています」

最先端の技術を取り入れる一方で、伝統技術の良さを受け継ぐこと。格式の重んじられるお茶業界で、佐々木さんのスタイルは異端なはず。後半では、そんな佐々木さんの思うお茶業界への思いと、ものづくりへのこだわりを伺います。

TEXT:Masaya Yamawaka
Photo:Takeshi Uematsu

佐々木 健

http://www.chakumi.com/

大学卒業後、調理の修業を経て飲食店を多数展開。料理専門誌やTVに多数出演するなど、料理人としての地位を確立する。製茶工場の社長との出会いをきっかけに日本茶の製茶技術を学び日本茶の道へ。神奈川県藤沢に「茶来未」をオープンし、飲食店向けの緑茶や企業向けのオリジナル茶の商品開発など多岐にわたる商品づくりに取り組んでいる。世界緑茶コンテスト最高金賞など受賞歴多数。今後の日本茶業界を担う茶師のひとりとして期待されている。

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