JOURNAL

HIROSHI TSUJI

前編

花火って素敵だなって心から思います

花火師と聞いてイメージするのはどんな仕事でしょうか? ORGAN CRAFTは音楽フェスを主宰していることもあり、演出としての花火に以前から関心がありました。”好き”の思いから、40歳目前で花火師の道に入った「湘南花火」の辻さんに、その仕事のこだわりと喜びを聞きます。

花火は打ち上げるまでが大切

倉庫のような製作所を考えていた僕たちの予想を裏切り、指定された場所は鎌倉の結婚式場だった。

「夏場は延べ200人くらいスタッフを動員するのですが、冬は少人数です。今日は3人で、長女も手伝ってくれています。一口に花火会社といってもいろいろで、打ち上げだけをやる会社もあれば、コンサートツアー専門の会社もあります」

辻さんの「湘南花火」は、その名の通り湘南に拠点を置く会社。湘南平塚花火大会や、湘南ベルマーレのホームゲームでの花火の打ち上げなど地元での活動はもとより、東北では震災復興の花火大会の主宰も行なっている。今日の現場は結婚式場。ブライダルの花火演出のデモンストレーションを行うという。

「花火師さんの仕事って、具体的にはどういったものなんですか?」と渡會。すると、辻さんから返ってきたのは、「僕の仕事は営業から始まるんです」という意外な答え。

「例えば花火大会なら、『花火ぴあ』のような雑誌などで大会の実行委員会を見つけて問い合わせるんです。業界のつながりとか紹介とかはなくて、真正面から電話営業です。ただ、大きい花火大会は魅力的な仕事ですが、経費もかかります。経営的には、高校の文化祭や結婚式場とかが主要な営業先になりますね」

まずは電話して会ってもらう約束を取り付ける。場合によっては、実際に打ち上げのデモンストレーションを行ってプレゼンをする。そして、具体的なプランの提案と見積もりを行い、それから受注となる。

「受注までも大変ですが、そこから現場の状況をチェックし、役所など各所に申請を行うので、仕事はたくさん。材料や機材の準備をしてから、当日セッティングを行う、という流れ。打ち上げるまでの道のりは長いですし、すべては営業から始まります」

伝統的な業界で、営業先探しやプレゼンから始まるというのは、正直意外だった。数日前にも浜松の結婚式場で2泊3日で実演のプレゼンをしたという。

「プレゼンは自分のやりたい演出を提案できるので楽しいですよ。1つ決まると、それを見た他のところから声がかかったりもするので」

「僕たちも同じで、お客さんがお客さんを呼んでくださることって多いです」と渡會。いい仕事をすれば次に繋がる。そして自分の仕事を知ってもらう努力をすること。そういった当たり前なことの積み重ねが大切なのだ。

40歳目前で花火師に

花火師の会社は日本全国に約330社といわれる。日本煙火協会に所属している会社の数だ。地域ごとに偏りはあるものの、平均して47都道府県7,8社くらい。そんな花火業界に辻さんがに入ったのは39歳の頃だったという。

「以前は知的障害者の福祉施設で働いていました。そこが夏祭りで花火をあげていて、ある年に、その花火を上げていた職人さんたちに打ち上げの手伝いをさせてもらったんです。もともと花火が好きだったのもあって、まあ気持ち良くて。年1回では物足りなくなって、花火師の方に『作るところ見に行かせてください!』って頼み込んで」

そうして花火の魅力にはまっていった辻さん。本業の合間を縫って花火の製作所や打ち上げの現場に同行し、仕事を学んだ。

「夜勤明けで花火の現場にいったり、まとまった休みがあるとみっちり仕込みを教わったり。自然に、自分でも花火屋になりたいと思うようになりました。それで資格を取って法律関係も学んで、開業の準備を進めていったんです」

師匠について8年。39歳の頃に福祉の仕事を辞め、「湘南花火」を立ち上げることになった。「40歳になって腰が重たくなる前にやろうと思いました」という。

 

お金よりも喜んでくれる顔が原動力

花火師として独立して5年ほどが経った今も、辻さんはアルバイトを掛け持ちしているという。

「花火は莫大な経費がかかります。人件費に運搬用のトラック、火薬や回路を制御するコンピューター。最高の花火を演出しようと思えば、現場ごとに必要な機材も変わりますし、オリジナルの演出をしようと思えば、新しい機材を揃えないといけません」

例えば何万発という大きな花火大会では、数千万円単位の経費がかかる。花火のクオリティにこだわるため、売上のほとんどを経費につぎ込むこともあるという。

「やりたいことがあると、儲け度外視でやっちゃいます。それに、何よりみなさんに喜んでもらいたいんです」

「今日も夜勤のアルバイト明けです」と辻さんは笑う。それでも「楽しくてしょうがない」という。

「夜空への景色作りっていうんですかね、お金よりもそれがなによりの原動力です。花火の火薬の音、衝撃、光。直感性っていうんでしょうか。以前働いていた福祉施設での花火大会で、車いすの方が花火にすごく反応してくれて。ご家族も『うちの子笑ったよ』とか喜んでくれたんです。ああ、花火って素敵だなって心から思います」

後半では辻さんの花火へのこだわり、クラフトマンシップに触れる。

TEXT:Masaya Yamawaka
Photo:Takeshi Uematsu

辻 博

http://shownan-hanabi.com/cms/

福祉の仕事の傍ら花火師に弟子入り。39歳で花火師として独立、「湘南花火」を立ち上げる。「湘南平塚花火大会」といった花火大会はもとより、湘南ベルマーレのホームゲームの花火演出や披露宴での打ち上げなども手がける。福島県いわき市で、震災追悼の花火大会を主催するなどの活動も。