JOURNAL

CRAFTSMAN SHIP | YUYA HIRANO2


“CRAFTSMAN SHIP”
渋谷の超人気美容院を卒業し、完全マンツーマンの隠れ家プライベートサロン「wakuna(ワクナ)」を鎌倉にオープンさせた美容師の平野裕也さん。「ORGAN CRAFT」の渡會竜也とは昔からの友人という縁もあって、内装工事はORGAN CRAFTがつとめました。今回のインタビューから見えてきた美容師におけるクラフトマンシップは、職人技とも言えるコミュニケーション術と、現場を大切にする心と捉えました。

渡會:今回の記事が、クラフトマンシップについての連載なので、ここからは職人、つまりクラフトマンとしての平野さんの話をしていきたいんですけど、まずは日々使っている道具を紹介してもらいたいです。
平野:美容師にとって、一番大事なのは、シザーですね。これは、美容師になってからずっと使っているものです。

渡會:おぉ、そんなに使えるものなんだ?
平野:もちろんピンきりだけど、質の高いものを、きちんと研いでメンテナンスすれば、ずっと使えるよ。研ぐことで、切れ味はかなり変わります。顔回りをカットするときは、とくに切れ味が重要だからね。切れ味が良くないと思い通りに切れないから、繊細さが求められる顔周りにはちゃんと切れるシザーは必要不可欠だね。

渡會:10年経っても現役かぁ。すごいなぁ。
平野:落として欠けちゃうとさすがに使えないんですけどね。美容師あるあるで、新人のときに先輩のシザーを落として、めちゃくちゃ怒られるっていう(笑)。1本10万円とか、普通だからね。

渡會:良い道具を丁寧に使うのは、美容師の基本なんですね。
平野:そうですね。あとは、地元の家具を作っている友達にイスやソファをつくってもらって。長野のヒノキとかクヌギとかを使っています。うちのお店にもキュポキュポは置いてません。知ってると思うけどそもそも、あれ、すごく高いんだよね。1脚10万円弱ぐらい。あれにそんなにお金をかけるなら、もっと自分にもお客様にも、良いイスにしたいよね。

渡會:自分が愛せるこだわりの空間や道具ってクラフトマンにとって、すごく大事だよね。僕らも自分たちの職場環境だったり、日常使う道具は一番大事だからなぁ。カットのこだわりはどんなところにありますか?
平野:美容師として大事なのは、デザイナーというよりもパタンナーというか、お客様の「こういうのが好き」に対して、ちゃんと形を直していいものにするということかなぁ。「こういう感じ、好きでしょ?」と、お客様がグッと来る提案ができることが大切だと思うんです。

 

渡會:なるほど。やはりコミュニケーションが大事なんだね。
平野:「こういうのが好きです」と言われる前に、自分から「こういうの好きですよね」と、言ってあげることによって「この人は分かってくれる」という安心感が生まれるんです。

渡會:でも、 初めてのお客様だったら、入り口から入ってきて、せいぜい10分くらいで見抜く必要があるってことだよね?
平野:最近では、経験でいろいろ分かるようになってきたけど、新人のときに先輩に言われたのは「靴を見ろ」ってことだった。靴はその人の好きなジャンルが出やすいから。そもそも、美容院にはオシャレをして来るからね。その人の好みがスタイルに出る。こんな見かけだから、けっこう心配されるんですよ。「こんな人で、大丈夫かな?」って(笑)。だから出会ってすぐ「あなたのこと、分かってますよ」って伝えてあげるんです。

渡會:僕らにも共通したことが言える。すごく重要なスキルだね、それは。
平野:同業者を見ていても、そこらへんの能力で差が出てきちゃう。もちろん、日々の鍛錬による技術の積み重ねが前提にあるけどね。ぼくはけっこうストイックになれるタイプで、技術に関しての妥協は一切ないです。そもそも、美容師って、年功序列じゃないから。売上も含めて、実力主義な世界。だから、そこで生まれる差ってどういうことなんだろうっていうのは、ずっと観察してきてて。それで出た答えが、お客様の好みをいち早く汲み取る力。特に、女性のお客様が多いから。よく言うでしょ?女性は分かってもらえるとうれしいって。

渡會:男女のケンカの原因になるやつね(笑)。
平野:そうそう(笑)。女性は細かい枝葉の部分よりも、全体の雰囲気を見ている方が多いので、空間も大事です。ここのお店は、入口のドアがステンドグラスなので、そこを活かして、アーティストのアトリエのような空間がイメージソースでした。

渡會:本当にいいお店だなぁと僕らも作っておいて自画自賛(笑)。今後、計画していることとか、新たな動きってなにかある?
平野:実は、隣の部屋の借り手がいなくて空いてて、そこも借りて、もっと面白くできればいいなぁと思っています。ギャラリーや飲食、ヨガスタジオというような、鎌倉の人に合ったライフスタイルを提案できるようになるといいんじゃないかと。都内にそういった複合型のお店があるけど、鎌倉だとお客様のライフスタイルがオーガニック志向だったり、ベジタリアンだったりするから、よりリアルに求められているって感じています

渡會:あぁ、いいね。また一緒に空間づくりしようね!
平野:独立してつくったお店がうまく周りだすと、経営に回ってお店に出てこない美容師さんも多いけど、ぼくはまだまだ働けるし、できる限り現場に立ち続けたいと思っています。

渡會:生涯現役。まさしくクラフトマンシップだね。今日はお時間いただいてありがとうございました。また海遊びと夜遊び行きましょう!

 

TEXT:Shintaro Kuzuhara
Photo:Fumihiko Ikemoto(PYRITE FILM)

 

vol

12

opo_image

971

opo_name

平野裕也さん

opo_text

プロフィール:1983年長野県松本市生まれ。 松本美容専門学校卒業後、2004年12月に都内有名店に入社。 スタイリストとして10年務めた後、2016年に独立。 鎌倉に「Wakuna」をオープン。趣味はサーフィンと海外旅行。

opo_url

opo_id

6

first_flag

0

first_url

last_url

https://organcraft.com/journal/craftman-ship-shota-nakahachi2

prev_url

https://organcraft.com/journal/craftsman-ship-yuya-hirano

next_url