“CRAFTSMAN SHIP”
日本人男性モデルとして数少ないパリコレ経験者である、ウエマツタケシさん。「ORGAN CRAFT」の渡會竜也とは、モデル活動以前に働いていたアパレルショップの先輩、後輩の仲という縁があり、お話を伺いました。近年では、自分の知らない世界への興味から、写真を撮り始め活動の幅を広げています。自発的に前へ進み、各人が芯を持ち、その全てをさらけ出す。この姿勢こそが世界で活躍するウエマツさんにとってのCRAFTSMAN SHIPだと、今回気づかされました。
渡會:タケシ(ウエマツさん)は最近写真も撮っているよね。始めたきっかけを聞いてもいいかな?
ウエマツ:2年前に始めました。ファッションの現場しか見ていない僕の視野って、本当に狭い世界でしかないなって急に不安に感じたんです。今までの僕にとって海外といえば、パリ、ロンドン、ニューヨーク、ミラノといった大都市でした。先進国の華やかさしか知らない、そんな状況でいいのかって思いがありました。
渡會:なるほどね。あまりにも偏った環境というか。
ウエマツ:それでもっといろんな世界を知りたい、共有したいって思ったんです。人に伝えるにはカメラが一番身近なツールだったんです。モデルの仕事で、普通の人に比べて写真という存在を身近に感じていましたし。そこで、カメラを1台購入して、インドや東南アジアといった途上国を回って写真を撮り始めました。
渡會:撮りたいと思う対象ってあるの?
ウエマツ:一番は人にフォーカスを当ててます。僕とは異なる環境で暮らしている、その人自身に一番興味があるんです。最近になって環境や、文化だけを切り取ることにも興味を持ててきました。モデルが写真を始める時の定番として、友達のモデルに洋服を着せて写真を撮ることが多いんですが、身の周りの人よりも、僕は自分の知らない世界にリンクするためのツールだと思っています。
渡會:タケシは自分がモデルとして撮られていて、撮る方になった時に他人に自分を重ねることがあるのかもね。写真を撮りたいと思う時はどんな時なの?
ウエマツ:この人は人間として僕と違うんだなって気付いた時に、心揺さぶられます。その違和感に反応して気付いたらシャッターを切ってますね。例えば、相手の日常が僕には異質に思えたりするじゃないですか。例えば、これ、僕が撮った写真なんですが。
渡會:お、いい写真だね! 雨の中撮ったんだ?
ウエマツ:そう、雨です。これはバングラデシュの造船所にある問屋街で撮りました。スコールが急にバーッと降ってきて、そこに一人の男性が傘をさして歩いてきたんです。カメラが壊れるかもとかもう何も考えずに無心にシャッターを切っていました。
渡會:タケシはこの場面で何を感じていたの?
ウエマツ:雨が降るまでは人でごった返していた場所が、スコールで急に人がいなくなったんです。そこに男性が一人だけ歩いてきて、これは男の人生が詰まってるなって直感したんです。今までの自分を重ねたじゃないですけど、男の人生っていろんな物を背負って生きているなと。僕も海外で本当に一人だったから余計に。他にもこんな写真があります。
渡會:いい顔してるね。これはどんな時に撮った写真なの?
ウエマツ:これは自分の中で最初に写真が撮れたと、納得できた一枚です。路地裏に入ったら子供と目が合ったんです。そしたら、急にポーズをとりだして。
渡會:何も言わずにコミュニケーションが始まったんだ? すごいね!
ウエマツ:そうなんですよ! 何も話していないのに子供の方から動き出して。この子と繋がれたんだなって、嬉しかったですね。しかも、表情や動きが徐々に良くなっていって。僕にとっては初心の一枚みたいな感じですね。最近だとこんな写真も撮ってます。
渡會:これは今までと全く雰囲気が違うね。
ウエマツ:これ、ポスターなんですよ。パリコレ後にベルリンで撮ったんですが、電柱に何層もポスターが重なっていて。ベルリンではクラブが産業として成り立っているという、背景を感じましたね。
渡會:剥がさずに何枚も重ねて、過去を蓄積していくんだね。
ウエマツ:街中にあるものって普通は意図があり、整って綺麗なものばかりじゃないですか。でも、僕は狙いがなく偶然できた美にも惹かれるというか。ファッションは狙った美しさじゃないですか。そうではなく、自然とこうなったみたいなのが美しい場合もあるんだよって僕は主張したいです。
渡會:タケシがいた世界とは真逆の世界だから、憧れを持つみたいな感じなのかな?
ウエマツ:それもあるかもしれないですね。後は、ストリートカルチャーが好きなので、そこから影響を受けていたかもしれないです。その中でも特に音楽はずっと好きで海外でもクラブによく行ってました。フェスに行くのも好きなんで、6月9、10日の「THE CAMP BOOK」も楽しみにしています。
渡會:写真を撮り始めて活動の幅に広がりを感じるけど、タケシは今後どうなりたいと考えているの?
ウエマツ:とりあえず、今のエージェンシーで僕が最年長なんでみんなのお手本になれるよう頑張ります。最近はインスタグラマーやフリーのモデルが沢山いるんで、負けていられないなと。今後は人としての個性、魅力を売り出していくのが大事だと思っています。中身の詰まった人間として存在感を発揮していきたいなと。
渡會:自分で写真を撮る様になったのも大きな変化かもしれないね。
ウエマツ:そうですね。カメラの前に立つということは、その人間の全てをさらけ出す行為だと思ってます。写真を撮り始めて気付いたのは、やはり中身の詰まった人が前に立つからこそかっこいいんだと。中身の薄さは透けて見えてしまいますしね。僕が周りのみんなを引っ張って、前に進んでいきたいですね。
渡會:タケシはいい男になったね。今日は本当にありがとう!
TEXT:Shuhei Wakiyama(M-3)
Photo:Fumihiko Ikemoto(PYRITE FILM)