WORK・VISION
[ CRAFT by organ craft ]
あらゆるフィールドで活動するクラフトマンの手仕事にフォーカス。
前編はパーソナルな部分、後編ではその人の仕事やビジョンを深堀る。

一回出来たから、次も出来るわけではない
「何かを覚えて終わりではなく、その瞬間によって状況が変わるのが左官です。日々勉強です。」左官の難しさを問うと、大迫さんはそう答える。
季節や気温によって、塗材の固まるスピードが変わるため、その状況を判断し、配合や施工にあたるという。加えて、自分たちが単純に施工できればいいというわけではなく、下地を組む大工への指示も重要となるため、施工マニュアルも逐次アップデートしている。
もう一つ左官の特徴として、いち部分だけ直す部分補修の難しさもある。乾燥のスピードにもよるが、スポットでの補修が難しい場合は、一面ごと塗り直しすることも。
もう出来るぞと思っても、次同じようにできるかはわからない。そのライブ感も左官の醍醐味だという。
塗材のバリエーションは、多岐にわたる
「MORTEXを使って、塗るまでの流れ見てみます? MORTEXは、セメントと石灰を特殊ブレンドしていて、強くて何にでもくっつく性質があります。そこに、さらに強度をあげるためにアクリル樹脂を加えます。最後に、複数の顔料を混ぜて、色味を調整し塗材は完成です。」
樹脂の中でも、接着度を上げるものもあれば、下げるものもあるという。
やりたい表現に対し、あらゆる選択肢やアプローチ方法があるなんとも奥が深い世界だ。
コテで、空気を掴む
傍から見ているこちらとしては、いとも簡単にコテをさばいているように映るが、
粘度や気温などを細かに読み、力加減で質感や表現を変える。
「いまでも、この瞬間は格別ですね。」とコテを、すっとなぞる。
チームとしてどう仕上げるか
「もちろん、ひとりでやることもありますが、案件に対してチームで動くことが多いです。スピードが必要な場面があるので、複数人でどう動くかを重視しています。また、各個人においてはそのチームの中でどう立ち回るかを常に考えるようにしています。」
いまでも、現場が好きで、現場に出続けたいという大迫さんだが、徐々にチームメンバーも増え、現在では教育・評価制度等に関しても常にアップデートしている最中だという。
「これまでは、自分の背中を見て、身に付けてくれれば。というスタイルだったが、メンバーも増えているし、そう上手くはいかない。あの人はこう言って、この人からはこう指示を受けたみたいな状況が発生してしまうし、軸の部分は統一していこうと。」
大喜舎は、次の旅へ舵を切る。
Q.店舗や住宅の場合、お客さんの顔がわからないこともあると思いますが、お客さんのことを考えるタイミングはありますか?
工務店さんなどからの依頼の場合、最終的にお客さんの顔がわからないことももちろんありますが、常に“そこがどういう場所になるのか”ということにフォーカスするようにしています。
自分たちに依頼してくれた方が喜んでくだされば、自ずとその先のお客さんにも伝わると信じています。店舗等の完成後は、自分たちも足を運んで現場のムードを確認しに行くこともありますし。やっぱり、お客さんの喜ぶ顔は原動力になりますね。
Q.左官業の未来はどう見据えていますか?
いまや3Dプリンターで住宅が建つ時代ですもんね。もちろん左官業においても、なくなるものや何かに取って代わられるものもあると思います。そんな中で、きれいごとかもしれませんが、僕らの状況判断力やお客さんとの擦り合わせから生まれるクリエイティブな部分は生き残っていくと思ってます。むしろそれがなくなったとき、僕らがいる意味がなくなってしまうと思いますし、そういった危機感を持ちながらも、新しい風を取り入れて一歩一歩進みたいと思ってます。
interview ・text:ORGAN CRAFT , photo:Yusuke Baba

大迫 喜春
https://www.taikisya-sakan.jp/
株式会社大喜舎 代表取締役。
1978年生まれ。一級左官技能士。
MORTEXの製造元であるBEAL社公認講習官。
Instagram:https://www.instagram.com/taikisha_sakan/