“CRAFTSMAN SHIP”
渋谷の超人気美容院を卒業し、完全マンツーマンの隠れ家プライベートサロン「wakuna(ワクナ)」を鎌倉にオープンさせた美容師の平野裕也さん。「ORGAN CRAFT」の渡會竜也とは昔からの友人という縁もあって、内装工事はORGAN CRAFTがつとめました。今回のインタビューから見えてきた美容師におけるクラフトマンシップは、職人技とも言えるコミュニケーション術と、現場を大切にする心と捉えました。
渡會:美容師さんの朝は早いのに、さらに早い時間帯での取材。今日はありがとうね。昔はよく飲んだけど、最近はじっくり話せる時間もお互いなかったので、今日は楽しみです。
平野:あの頃はよく飲んでたね。いやぁ、本当によく飲んでた(笑)。
渡會:それにしても、やっぱり鎌倉の朝は気持ちがいいね。
平野:そうなんですよ。独立前のお店で美容師をしているときに、サーフィンにハマって、週に1回くらい鎌倉周辺に通うようになってて。
それで、この土地の良さに気づいて。すごくおもしろい街なんだよね。フラっと来てくれたお客様が、実は大学の教授だったり、フリーランスとか、クリエイティブな仕事をしているお客様も多いし。葉山から江ノ島あたりまで、幅広い方達にお越しいただいています。
渡會:あぁ、鎌倉っぽいね〜。
平野:昔は独立するなら、地元の松本にしようと考えていたんだけど、結婚もして子どももできたから、家族で松本に引っ越すのも、今じゃないかなぁと思って。カミさんもサーフィンするし、この辺は子育てもしやすい。だから、ここの物件を借りました。家も逗子に引っ越したんで、すごく良い環境で毎日を過ごしています。お店から見える景色もすごくいいし、この建物もカッコイイし。借りたてでまだ区画1つしか借りてなかった時は夜な夜な色々話したね!
渡會:ここのビルは40年前のビルだから、技術の発展で今は必要ない施工方法がされていたりする。例えば、躯体基礎工事の時に上の階にコンクリートを流し込むために天井に穴を空けていて、それをを木で塞いでいたり、荒板で型枠をするんだけど、その風合いが残っていたり。あのころの建物にしかない味があってすごく良いんだよね。最近のコンクリート打ちっぱなしって、さらっとキレイな壁になっちゃうんですけど、ここはいい意味でラフな仕上げ。 天井も高いし、すごくいい空間だね。
平野:そうそう。僕がそもそも、美容師になったのは、お店が持ちたかったからなんだよね。自分の空間をつくることへの興味が先にあった。
渡會:え!そうなの?
平野:そうなんだよね。20代の中頃には、美容師から、空間デザイナーにシフトしようかと本気で考えていたぐらい空間をつくることに興味があった。実家が八百屋だったからだと思うんだけど。いつも親の仕事を見ながら、お店を持ちたいなぁと思ってたよ。
渡會:お店を持つって言っても、いろんな仕事があると思うんだけど、なぜ美容師に?
平野:お客さんとじっくり会話する仕事にしたかったからだね。お店を持ちながら、ちゃんとコミュニケーションが取れるっていう条件だったら、美容師だろうと。高校を卒業した後、地元の専門学校に通って、渋谷にある今ではとても有名なサロンに入りました。 学生の時には地元の美容院の手伝いでシャンプーはやってたんだけど、ほぼ素人みたいなもんだったんで、本当にいろいろ勉強させてもらいましたよ。
渡會:美容師としてのキャリアのスタートがあのサロンって、めちゃくちゃかっこいいよね。
平野:当時からかなりとんがっているお店だったからね。ここの店とは真逆の雰囲気なところはあるんだけど、オーナーがフランス好きだったので、ゴシック調のアンティークな内装。よくある美容院のイスって、美容師がステップをキュポキュポ踏んで、座面が上下するじゃん?あのイスをかなり昔から使ってないんだよね。
渡會:デザイン優先でかっこいいイスを入れてたって事だ。
平野:そうそう。座面を上下できたほうが仕事はしやすいんだけどね。最近は普通のイスのお店が多いけど、そのサロンはかなり早いタイミングだったね。スタッフも個性的なメンバーが揃っていたし笑。20歳のとき入社して、10年間、いろんなことを学ばせてもらいました。カミさんも元々そこのスタッフだしね。
渡會:そのころだよねぇ、よく飲んでいたのは。その後順調に美容師としての経験を積んでいたのに、どうして独立したの?
平野:元々30歳になったら独立しようって決めていたんだよね。経営的なことも、お店の運営も、学びながら仕事をしていて、自分の店の雰囲気や、イメージも明確に描いていたから、年に2回は海外へバックパッカーしに行って、自分のお店に置きたい小物を買い集めてたんだよ。そんなこんなで、2016年の9月にオープンして、もう1年半かな。最近ではありがたいことに、本当にたくさんのお客様に来ていただけるようになり、2018年の1月には増床しました。
渡會:まさかそんな早くまた仕事の依頼が来るとは思わなかったよ(笑)
後半は平野さんが考えるクラフトマンシップについて、話を聞いていきます。
TEXT:Shintaro Kuzuhara
Photo:Fumihiko Ikemoto(PYRITE FILM)