ESSENCE

#1 山と海、仕事と暮らし
by Yasuaki Kouroki

山の上で降った雨は、長い年月をかけて地中に染み込み、やがて地下水となって湧き出したり、川へと流れ、山のミネラルを運びながら、ゆっくりと海へたどり着く。
一方で、海の上で生まれた雲は風に乗って山へ向かい、また雨を降らせる。
自然界の、静かで壮大な循環。

山と海。
一見、まったく違うふたつの存在だけれど、実際には深く結びつき、互いを必要としながら、この豊かな世界を形づくっている。そんな山と海のように、僕自身もいま、山と海を行き来する暮らしと仕事を送っている。

現在、僕は「ist」というブランドで、長野県・八ヶ岳の麓にある「ist – Aokinodaira」と、新潟県・佐渡島にある「ist – Sado」。ふたつのキャンプフィールドを運営しながら、長野と葉山を行き来する暮らしをはじめた。

葉山の家は、斜面沿いに建つ小さなアパートの一室。
窓を開けると、海から吹き抜ける風が心地よく部屋を通り抜けていく。
朝は、カーテンを開け、窓を全開にするところから一日が始まる。
植物に水をやり、コーヒーを淹れ、窓の先に広がる里山の緑をぼんやりと眺めながら、深呼吸をする。そんな時間が、自分にとっての朝の習慣になっている。

最近ふと、思うことがある。

僕が暮らしのなかで「心地よい」と感じていることが、そのままistの事業や空間ににじみ出ているのではないかと。
今夏、ist – Aokinodairaの場内に新しく完成する「Hut -glow-」には、これまでのHutでは採用してこなかった“カーテン”を取り入れる予定だ。
そのきっかけは、葉山での暮らしにある。

風が部屋を通り抜けるたびに、カーテンがふわりと揺れて、目には見えないはずの風の存在が、そっと可視化される。
その様子に、どこか魅了されていた。
また、カーテン越しに見る外の景色は、直接見るのとは少し違って映ることがある。
これまで僕は、カーテンを「光を遮るもの」としてしか捉えていなかったけれど、それだけではないと気づかされた。

カーテンは、風の流れを映し出し、差し込む光の角度や強さによって、さまざまな表情を見せる。
そして、一枚の布を通して眺めることで、いつもの風景がまるで違ったものとして立ち現れる瞬間がある。
このカーテンに限らず、istには暮らしの中で感じたちいさな発見を随所に反映させている。

新しい事業を起こすときも、新しいコンテンツやプロダクトをつくるときも、僕が大切にしているのは「いいものを生み出すには、いいものに触れつづけること」。
体験を通して「いい」と感じたことが、自分の中に少しずつ蓄積されていく。
その積み重ねこそが、やがてアウトプットとなり、事業や空間に反映されていくのだと思う。

自然を通して何かを伝えたいなら、まずは自分自身が自然に出かけていき、感じ、遊び、親しむこと。
そして、自然と暮らしを無理なく紐づけるように、日常のなかで実践していくこと。
その繰り返しの中に、また新しい何かが生まれていく。

海と山が深く結びつき、互いを必要としているように、僕の仕事と暮らしの関係もまた、
まるで、海と山のようだと感じている。

興梠 泰明 (こうろき やすあき)
1994年生まれ。滋賀県出身。幼少期から自然に囲まれて育ち、自然と遊ぶのが好き。
現在は、暮らしと自然がシームレスにつながる事業「ist」を立ち上げ、長野県八ヶ岳エリアにある「ist – Aokinodaira」、新潟県佐渡島にある「ist – Sado」の2拠点を運営中。
趣味はアウトドア全般。なかでもサーフィンと渓流釣りが好き。自然の中で過ごす時間が、何よりのインプット。
Instagram:@ysakjohn