後世まで続くモノ作りのために
浅草で親子三代にわたって手ぬぐいを作る「ふじ屋」の職人、川上正洋さん。伝統を守りながらも、現代的なエッセンスが新しい粋を魅せてくれる手ぬぐいが人気だ。その一点一点が職人によるオリジナルデザインということからも、国内外に多くのファンを持つ「ふじ屋」の手ぬぐい。2020年に発生した世界的なパンデミックであるコロナ禍を経て、その手ぬぐい作りはどのように変わったのか。後編では、ふじ屋の三代目である川上正洋さんにこれからのモノ作りについて話を伺った。
デザイン料は取らないオーダーメイド
--お仕事を通じて、一番やりがいを感じる瞬間は? 川上:ふじ屋では、創業時から変わらずオーダーによるオリジナルの手ぬぐいを作っています。しかしデザイン料は一切いただいていません。店頭や電話、メールでお客さんのイメージやリクエストを伺い、それをデザインに落とし込んだオリジナルの手ぬぐいを提供しています。そして結婚や出産といったお祝いや記念の時の名入れも行っています。
それらを納品した時に想像以上に喜んでいただけて、さらにリピーターになってくださった時にこの上ない喜びを感じます。それがこの仕事をしていて一番嬉しい瞬間です。
--なぜ、デザイン料をいただかないのですか?
川上:私たちは職人でありデザイナーではありません、なのでデザイン料をいただくことはできません、という考えだからです。あくまでも手ぬぐいを作っているという感覚でいます。その下絵は手ぬぐいの一部分にすぎないと思っています。
--川上さんご自身が17年間、手ぬぐい作りをしてこられて、ターニングポイントはありますか?
川上:やはりうちも例外でなく、2020年から始まったコロナ禍の頃ですね。
あれほど、毎日賑わっていた浅草からも人が消え、この町で生まれてから今まで見たことがない風景がそこにありました。けれどもモノ作りは止められないと奮闘していましたが、肝心な届ける人たちがいない。そんな空虚な事態に陥りました。
何としても仕事やお店を無くしてはいけないと思い、お客さんを再び呼び戻すために試行錯誤した結果、オンラインでの販売やSNSでのPR展開などを積極的に行うようシフトしました。
また、手ぬぐいの生地でマスクを作るなどにもトライしました。
『ふじ屋』と職人たち、そして浅草の伝統を守る。そんな思いで、情勢やニーズに合ったモノ作りや提案方法を必死で考えて、自分たちなりに行動していました。その結果、新しい層のお客さんにも手ぬぐいを届けることができ喜んでいただけて、私たちのコロナ禍におけるモノ作りも、身を結ぶことができました。
異業種とのコラボで広がる手ぬぐいの可能性
--三代目である川上さんの代で成し遂げたいことは何ですか?
川上:手ぬぐいは布なので、ファブリックと考えると色々可能性は広がります。
今まででも、変わり種としては、財布やハンチング帽などを展開してきました。あとは、市松人形や下駄の鼻緒なども作りました。
今後はもっと積極的に異業種の方々とコラボレーションを実現したいです。例えば防災グッズ。捻挫したら縛る、三角巾の代わりに腕を吊る、火事の時には口を塞ぐなど、有事の時に役に立つ手ぬぐいを作りたいです。
またはキャンプを始めとしたアウトドアグッズなども手ぬぐいを使って色々作れそう。手ぬぐいで実現できる新しいアプローチがたくさんありそうです。
「これはちょっとユニークな膝掛け用の手ぬぐいとして提案しています。このように染めた柄の手ぬぐいをつら(折り目)を合わせると袴のようなデザインに。これでお食事の時のひざかけにして使うといったものです」と川上さん
--川上さんにとってクラフトマンシップとは?
川上:お客さんに喜んでいただけることを大前提にしながら、モノ作りに対して妥協しないことが私にとってのクラフトマンシップです。
前述にもあるように、私たちはデザイナーではないので、デザイン料はいただきません、手ぬぐいとしての商品を作り、お客さんへ届けることが私たちの仕事だと思っています。
特にオーダーで作るものは、お客さんの思いを正確に汲み取ることが大事です。
この手ぬぐいがどんな意味、そして役割を持つのかを最大限に想像しながら、お客さんのリクエストを理解していきます。時にはやや抽象的なお客さんのイメージをデザインして、大切な思いを可視化することも私たちの仕事だと思っています。
今まで、そしてこれから自分たちの作ったものが、後世までずっと残ってくれたらそれは大変嬉しいことですが、もしお客さんに『これはいいものだ』と思っていただき、それが自然と残っていくことができたら、それこそが本望です。
「染絵手ぬぐい ふじ屋」
東京都台東区浅草2-2-15
営業時間:11:00~17:00
定休日:木曜日
電話:03-3841-2283
INTERVIEW&TEXT&PHOTO: Daisuke Udagawa(M-3)
川上正洋
染絵てぬぐい ふじ屋
三代目 川上正洋
1984年生まれ、東京都出身。1947年に浅草で創業し、三代にわたる「染絵てぬぐい ふじ屋」の職人。2007年に父である二代目の千尋氏に師事。「江戸モダン」をコンセプトにした自由なアプローチからなる手ぬぐいを中心としたプロダクトの展開で国内外に多くのファンを持つ。
https://www.instagram.com/tenuguifujiya/