JOURNAL

KUNPEI NAKATAKE

後編

ブームで終わらせないために

コロナ禍でお家時間が増えた事による影響も大きく、自分にとって最適な場所を作ることが大切だと気づいた人々が、自分好みの空間に必要と考えたのが部屋の印象を大きく変えるラグ。徳島と東京を繋ぐ、薫平さんの伝統工芸への想いとその背景。今後の展望や、妹の千友梨さんと営むワークショップについて教えてもらった。

人が人を呼び、たちまち話題に

初めてのワークショップを開いたのは2021年10月。薫平さんがSNSで自分の作品をあげていくうちに、次々と「私も作ってみたい」とオファーを貰ったことがキッカケだったという。その中には、多くのフォロワーを持つ人気インフルエンサーの姿もあった。

「その方の投稿がきっかけで、色々な方々から同じように『作ってみたい』と言うお声をいただくようになり、最初にワークショップに来てくれた方の紹介などで知名度が上がり、たちまち予約が埋まっていくようになりました。今までは既製品の中から自分のフィーリングに合うものや部屋の雰囲気に合うようなものを選ぶことしかできなかったラグですが、ここに来れば自分の頭の中のものを具現化できる、そして特別な愛着を持つオンリーワンのラグが作れる、と喜んでいただいています」

 

安心できる家族が加わって

完全オリジナルのラグは、事前にデータで描きたいデザインを送ってもらい、それをプロジェクターで元の布に投影し、ペンで下書きをする。その後、横・縦・曲線などを打ち込む練習をし、タフティングガンに慣れていく。しばらくして操作方法のコツを掴んだら、自分の理想に合う糸を選んでいくが、一番お客さんが楽しいのがこの作業かもしれない、と薫平さんも妹の千友梨(ちゆり)さんも声を揃えて言う。

「ワークショップを始める時に、ちょうど同じタイミングに会社を退社した妹の千友梨が協力してくれるようになりました。彼女は完全に運営の方を担当してもらっています。僕は経理とかそういう業務が向いていなくて(笑)。妹だとお互い気を使わないし、言いたい事も言い合えるので安心して自分の好きなことやしたいことができるので感謝しています」

「私はワークショップを通じて今まで出逢えなかったような方たち、色々な職業の方に会えることが嬉しいです。KEKEとは違うベクトルの、最初から最後まで1人で行うようなフリーランスのお仕事の方や、存在するのも知らなかったような職業の方などともお話できて、自分が生きてきた世界と違う人たちと知り合えたんです」(千友梨さん)

 

ラグ作りをもっと身近な存在に

見ているこちらまで穏やかな雰囲気にさせる兄妹の空気感に我々だけでなく、ワークショップに来たお客さんもそう感じているだろうということは容易に想像ができる。

「ワークショップを通じて、ラグをもっと身近な存在として捉えてもらえるようになってもらえたら、と思っています。日本には残り数件しかラグ工場が残っていないんです。僕は徳島の工場の方から声をかけて頂いて今に至りますが、どの工場も高齢化が続いていて、後を継いでくれるような人がいないことが大きな問題になっていて。だから、ワークショップからスタートして、まずはタフティングという技術を知ってもらい、そこからその楽しさを共有して、今はまだ聴き慣れない言葉である『タフティング』と『ラグ作り』をもっともっと身近なものにしていきたいです。ラグ作りの楽しさ、存在を知ってもらい、徳島の工場を守っていく。日本の伝統工芸としてのモノづくりを残していきたいという気持ちでいるんです」

 

代々受け継がれた技術を守りながら <鏡餅・自転車はKEKE インスタグラムより>

MIYOSHI RUGとの活動を始めて徳島の工場に就職することが決まった人たちが2名いる。将来的には徳島で職人として働くことになるが、その前に根津にあるワークショップも行う場所で修行をしているんです。工場だけでは新しい人材を確保することが困難でした。一方、僕の方では技術面や資材が足りなかった。力を合わせたからこそ1つの大きな課題だった後継ぎ問題が解決されようとしています。こういう新しい作用が生まれることや、独自の技術が残ることはとても価値があることだと思うんです」

そしてワークショップを開催しながらでも薫平さんは自分の作品作りも同時進行で行ってている。その視点は独特で、オリジナル作品をインスタグラムで発表すると多くの共感を得るのだという。最近ではMARIA SAKURAI/ 櫻井万里明(@eazy_happy_step)との巨大なラグで表現されたコラボ作品や、趣味である路上観察から得た構想を具現化した作品なども話題となっている。最後に、そんな薫平さんにモノ作りについて伺うと。

 

素材の変換から「意識の変化」へ

「自分で作る作品は、大学時代からテーマとして掲げている『素材の変換』を意識しています。お正月に実家に帰省した時に、インスタグラムの投稿用に何か作りたい!と思い、その時は実家に数色の糸しか持って帰っていなくて。その中の赤と白の2色だけで作れるものはないかと頭を捻って出てきたのが鏡餅モチーフだったんです。見た目は本物と同じなのに、素材だけが違うんです。そこで少しの違和感が生まれるんですね。そんなふうに“心地よい違和感”を生み出すことができれば、ラグの楽しさや魅力が格段と膨らむと考えるようになりました。普段はスポットライトを浴びないような当たり前のものにフォーカスすることで、僕の作品を見た人が『他にもあるよね』という気持ちになって、今まで見てきた他の物の見方を変えて、ラグのモチーフとして新鮮な気づきがあり、もっともっとラグを好きになってもらえたら嬉しいです」

 

INTERVIEW & PHOTO:Daisuke Udagawa(M-3)
TEXT: Yumiko Fukuda(M-3)

中武薫平

https://kekerug.com

「KEKE」タフティングデザイナー
中武薫平
1995年生まれ、宮崎県出身。

多摩美術大学プロダクトデザイン学科卒業。アパレル会社で企画開発とグラフィックデザイン、SNS運用などを担当したのち、フリーランスとなる。デザイナーとしてKIENGIに所属。現在は徳島県のラグ工場MIYOSHI RUGと共同でタフティングのワークショップやラグ作りの伝統を幅広い層に届ける活動を行なっている。ワークショップももちろんその取り組みの1つ。

HP https://kekerug.com
Instagram @keke_rug @miyoshirug

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