JOURNAL

YASUO ISHII

前編

街のロースタリーから、世界へ

積極的な宣伝活動はしない。ただ目の前にいるお客様に自分たちが信じたものを提供する、ただそれだけ。世界中から厳選した生豆を独自の方法で焙煎してお客様の元へ。そんなルーティンがたちまち話題となり、今日も「LEAVES COFFEE ROASTERS」の店内は賑わいを見せている。ただ「美味しい」をシンプルに突き詰めた、石井康雄さんとはどんな人物なのか。コーヒーに魅せられた石井さんの、そのクラフトマンシップに迫る。

 

19歳で敗れた最初の夢

下町情緒溢れる墨田区は本所に、「LEAVES COFFEE ROASTERS」のロースタリー兼カフェがある。吐く息がまだ少し白く残るような日にそのお店を訪れた。お店の扉を開けるとすぐに良質なコーヒーのフレーバーに包まれた。新鮮だけど、どこか懐かしい、そして安心する。そんなコーヒーのいい香りの中でインタビューは行われた。

「地元では、小さい頃から目立ちたがり屋のガキ大将というポジションでした。勉強は苦手でしたがスポーツは得意な方でした。それもあって、軽い気持ちで中学3年生の時にボクシングジムに通い始めたのですが、練習をすればするほど自分が強くなっていくのが面白くて、毎日ジムへ通うようになりました。そのままトントン拍子に進み、弱冠16-7歳(高校2年生)の時にプロデビューすることができました」

しかしそんな異例の高校生ボクサーとして華々しくプロデビューした石井さんを待ち受けていたのは、若年齢というハンデだけではなく、ハードスポーツ及び格闘技において避けては通れない怪我との戦いだった。

「プロになって3年ほど経過した19歳の時でした。それまで幾度も行ってきた無理な減量が原因でしょうね・・・。僕はその頃の体重が通常で70kgくらいだったんですが、試合前の減量時になると1週間で一気に54kgまで落とすという負担が大きな減量を何度も繰り返していたんです。その代償として、骨がスカスカの状態になっていたんだと思います。試合中も、自分の記憶にある70kgのフィジカルの状態で攻撃しても54kgの身体とは全く違っていて・・・。試合中1ラウンド目で骨が折れて救急車で病院まで運ばれました。手術をしても元の状態には戻らず、その後ドクターストップがかかりました。もうプロとしてリングに立つことができないと知り、絶望するしかありませんでした」

 

新しい命、守るべきもの

ジムのメンバーや周りの知人から、大きな期待をかけられていた。史上最速で日本チャンピオンに!と望む声も多かった、そんな矢先での大怪我だったという。しかし同時に幸か不幸かそんな希望を無くした状態の石井さんを奮い立たせるような出来事が発覚する。

「その当時付き合っていた彼女との間に子供ができたんです。それで結婚して奥さんと子供を養っていかないといけない、自分がちゃんと生計を立てて暮らしていかないといけない状態になって。当時は『タイミングが悪かったな』なんて思ったりもしたのですが、今ではむしろ、未来への希望を無くしていた自分に新しい命を守るという役目ができて良かったんだと思うようになりました。当時、生まれた長男は来年には20歳を迎えます。翌年には次男にも恵まれました」

 

モノを届ける喜びとの出会い

昼は住宅サッシの施工などを手掛ける仕事をし、夜は飲料メーカーの営業職として働き始めた石井さん。常人には理解ができない減量スピードと同じように、仕事先でもストイックに成績を突き詰めていった。お客さんとの間に信頼関係を徐々に築いていき、間も無く社内でトップセールスを叩き出すようになった。そして、なんと入社1年半で部長というポジションにまで上り詰めた。

「その飲料メーカーでは、4年ほど勤続しました。もちろん顧客相手である卸売業者の方が喜んでくれる顔を見るのは楽しかったし、やり甲斐も給与面での安定も十分に感じていました。でもどこかで『自分にもっとできることはないか?』という考えがあったんです。すると次第に『実際に、自分の手で作ったものを届けて喜んでもらえたらいいな』という思いが芽生えてきました」

 

自分で経験した事しか信じない

その後、飲料メーカーを退職し昼は引き続き建築業をしながら今度は飲食業に飛び込んでみたのだという。焼鳥屋、ラーメン屋、ハンバーグ屋、バルといった多ジャンルのお店で働き、たくさんの経験を積みながら自分に一番合うスタイルを模索した。

「多種多様な経験を積んでいく中で、ワインを飲みながら気軽に食事ができるバルのスタイルに魅力を感じるようになったんです。お客さんの雰囲気、お酒も入って、フレンドリーな感じや長い間ゆっくりと楽しみながら滞在できるスタイルが自分の飲食の理想に近かったというか」

飲食業にこだわった理由を石井さんに聞くと「目の前にサービスを提供する相手がいて、自分の目で喜んでいる姿を確認できる。それが自分にとって必要で大事なことなんです。僕は自分の目で確かめて、経験したものでないと信じられないから」と返ってきた。

後半では、経営するスペインバルを7店舗まで拡大させ成功を納めたにも関わらず、その全ての店舗を譲渡し珈琲の世界へとのめり込んでいくようになった経緯などをお伺いする。

 

INTERVIEW & PHOTO:Daisuke Udagawa(M-3)
TEXT: Yumiko Fukuda(M-3)

石井康雄

https://leavescoffee.jp

「LEAVES COFFEE ROASTERS」コーヒー焙煎士
1982年生まれ、東京都出身

高校生でプロボクサーとしてデビュー。19歳の時に怪我のため引退。その後は飲食店を数店舗経営するも、珈琲に集中したい想いから全ての店を譲渡し、2019年1月に「LEAVES COFFEE ROASTERS」(リーブス コーヒー ロースターズ)を東京・蔵前にオープンさせる。夢は焙煎の世界チャンピオンになること。趣味は1950年代頃のアメリカやフランスのハンドメイド眼鏡の収集。好きな言葉は「自分の仕事をしなさい、そうすればもっと強くなれる」※書籍『自己信頼』(ラルフ・ウォルドー・エマソン著)より。


<店舗情報>
LEAVES COFFEE ROASTERS(リーブス コーヒー ロースターズ)
東京都墨田区本所1丁目8−8
03-5637-8718
10:00〜17:00
営業日:土・日・月曜・祝日
定休日:火曜〜金曜
Instagram:@leaves_coffee_roasters
HP:https://leavescoffee.jp/

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