JOURNAL

SHORYU YAMADA

後編

ゴールを作って目指すより、一番大切なのは人に喜んでもらうこと

鎌倉で創作フレンチ・イタリアン「DRAQUIRE(ドラキア)」を営むシェフの山田尚立(やまだ しょうりゅう)さん。インタビュー後編は、料理の根幹になるメニュー作りなどについて話を聞いた。

DRAQUIREでは、地元鎌倉・三浦の野菜に相模湾で獲れた新鮮な魚介、国産のジビエなど食材にこだわった料理と、各皿に合わせたワインペアリングも楽しめる。山田さんはいつもどんなところからアイデアを得て、新しいメニューを考案しているのだろうか。

「意外と家系ラーメンとか大衆居酒屋などのB級グルメからもアプローチがありますね。あとは寿司や中華など、他のジャンルや自分でやったことのない料理から勉強したり、アイデアをもらったりすることも沢山あります」

この味を詰めるとどんな味になるだろう、何を足したらこんな味になるだろうと、いつもイメージしながら食べているのだとか。山田さん曰く、「舌は筋トレみたいなもの」だという。

「何事も毎日同じことをしていたら段々良くなっていくのと同じことだと思います。毎回何も考えないで食べるのか、それとも意識して考えながら食べるのかで変わってくるのかなと。あとはイメージした通りのものが作れるようになるためには、自分で研究を重ねないといけないですよね」


五感を刺激する盛り付けの秘密

研究熱心な山田さんが生み出す料理は、舌はもちろん、その美しい盛り付けにも目を奪われる。バランス良く贅沢にお皿に乗せられる食材に、ソースで描かれるアクセントとなる彩は、私達の五感を刺激してくれる。そんな盛り付けのインスピレーションになるものを聞いてみた。

「ゲルハルト・リヒターの抽象画など、アートからインスピレーションをもらっています。実はグラフィティをやっていた時期もあって、ジャン=ミシェル・バスキアやバンクシーも好きですね。これもアートから得た色の組み合わせが記憶に残っていて、それが盛り付けの彩りに繋がっているのだと思います」

まるで絵を描くように一皿を演出することは、フレンチのテクニックでもある。ソースや素材自体の色が映えるように、前菜やコースの中で一品は必ず白いお皿を使って一皿をデザインすることにこだわりを持ってやっているそう。

前菜の「アスパラガスのブランマンジェ」は、ホワイトアスパラをミキサーにかけ、クリームと和えた後にシノワで濾し、塩麴のアイスクリームをピューレ上に乗せた丁寧な一皿。見た目の美しさのみならず品のある味付けで我々はすぐにその味の虜になった。


探し求められ、どんな人にもフィットする場所

お店についての話を聞いているなかで気になったのは、「DRAQUIRE」という店の名前。イタリア語・フランス語の辞書で調べてみても出てこないと思ったら、これは山田さんが作った造語だそう。

「ドラは、“dramatic”や『思い切った』という意味の“drastic”から。キアはラテン語の『探し求める』を由来にして出来た“inquire”や“require”をドッキングさせました。あと、自分が尚立(しょうりゅう)という名前なので、ドラゴン(龍)も入れておこうかなと思ってDRAQUIREになりました」

高級店にありがちな、近寄りがたくて入りづらい雰囲気を一切感じさせない店の佇まい。春には店の前で桜が花を咲かせるそう。メニューもコースのみではなくアラカルトも用意しているDRAQUIREは、気軽にふらっと立ち寄ることができる上に、子ども連れも大歓迎なレストラン。それは山田さんがイタリアンやフレンチに対してのハードルを下げたいという気持ちから作ったお店のスタイルだ。
江ノ電が通る海沿いの踏切を曲がり、鎌倉プリンスを通り過ぎて坂道を登り切った見晴らしの良い抜群のロケーション。トラットリア(イタリアの大衆食堂)のような雰囲気にしたのもこだわりの一つ。

美味しい料理に仲間が集うとついつい話に花が咲き、沢山の人の笑顔で溢れるDRAQUIRE。料理を通じて人と人の繋がりを深めている山田さんに、山田さんにとってのクラフトマンシップを教えてもらった。

「長く続けることや新しい事をやることが良しとされていますが、僕は別に続けなくても良いし、新しい事に固執しなくて良いと思うんです。ゴールは無いので、ただひたすら目の前にある自分が“やりたいこと”と“やるべきこと”をやりながら、『人に喜ばれること』をしていくのが一番大切だと思っています」

クールな雰囲気で淡々と話を進めてくれた山田さん。彼の言葉の端々には、料理への情熱と料理人として誰かを喜ばせたいという優しさが滲んでいる。丁寧に仕込まれ、アート作品を思わせるような盛り付け、複雑でいて味覚にストレートに語りかける食感や風味は、一口、口に運ぶたび、自分の心や身体を幸福感で満たしてくれる。DRAQUIREはそうやって自分自身を癒せるレストランだ。是非、舌鼓を打ちに足を運んで欲しい。

INTERVIEW&TEXT: Natsumi Chiba
PHOTO:Shu Kojima

山田尚立

https://draquire.com/

1985年生まれ。幼少期から青年期の多くをヨーロッパ各国で過ごし、料理の道を志してからはイタリアンのイル・テアトリーノ・ダ・サローネ、フレンチのミシェル・トロワグロ、北欧のノーマの遺伝子を継ぐイヌアなどを経て、白金高輪オレキスのヘッド・シェフを務めたのち独立。縁の深い鎌倉にDRAQUIREをオープン。

Instagram: https://www.instagram.com/_draquire_/ (@_draquire_)

前編を見る