JOURNAL

TOMOYA SATO

後編

風の向きを知り、自然を感じるようになった日

天候や気温、日照量や雨量、湿度といった不確定要素が多く、長年の経験があっても上手くいかない事も多い農業という職業。そこでは植物を見る人間の目が最も大切になってくるという。引き続き佐藤さんに、農業の魅力について伺う。

「外の気温が20度でも、それが晴れているか曇っているかでビニールハウスの中の気温や湿度は変わってきます。この仕事をするようになってから、朝起きて風がどちらの方角から吹いているかなどを考えるようになったんです。経験を重ねて、その上で第六感のような勘を働かせて見極めていくことが大事。農業は、予測不能な自然の作用を相手に作物を育てるというものです」 

 

同じ一年は二度とない、毎年ゼロからのスタート

「土地にも、全く同じ地形や場所は無いので全ての事を参考にすることができないのが難しいところです。地形によっても対応の1つ1つが違ってきます」

同じ土地で、同じ作物を長く育てている農家の方でも、毎年リセットされてゼロからスタートという。かつての経験や記憶、統計はあるが、毎年気候や雨量や災害の有無が変化する。度々予想できない事も起こる。だから『農家は毎年1年生のようなもの』と言われている。

「同じ土地で長く農業を営まれている方々のことを、心の底から尊敬しています。種を蒔くタイミングとか、肥料を入れる時期とか、そういうものを勉強させていただきました。毎年新しい事にチャレンジし続けているということは、本当にすごいこと。自分は趣味で長い間サーフィンをしていて、天気や風を読む勘の良さには自信があったつもりでした。でも種をまいて土の力や太陽の力、自然の力を借りて作物を育てていくという事はそれとは全く違い、とても難しいことです」

自然を相手にしているからこそ、決してマニュアル化ができないのが農業。でも、「そこが農業の魅力」と佐藤さんは続けた

 

良いものを多くの人に知ってもらいたい

「自分で作ったトマトの美味しさをもっと多くの方に知ってもらいたいという気持ちから、キッチンカーでのピザ販売を始めました。

うちで作っているトマトを使ったらどんなレシピなら相性がいいか考え、ピザを作ったらとんでもなく美味しいピザができると思い、本格的なピザ屋さんを色々調査して勉強しました。ピザはソースで差が付きやすく、また本格的なパスタは家でも作れるけど、ピザは難しい。その理由は実は窯にあるんです」

家庭のオーブンでピザを焼くと300度程度の温度しか出ず、時間がかかる。その点、溶岩石を使用した窯だと温度は500度にも上り、短時間で焼ける事で生地が柔らかく仕上がる。また、チーズは焦げることで旨味が増すので、その効果もあり、格段に味の質が上がるのだという。

特別なトマトを使用し、更には他にも多くのことをこだわり抜いて作られたピザは、家庭では到底真似のできない味になっている。

農業の可能性、これからの未来のこと

コロナ禍が落ち着いた頃には、旅行会社やホテルなどともコラボレーションを積極的にし、農業体験などのイベントも計画中だという。農業を身近に感じていただき、家族や恋人や友人同士のコミュニケーションにも繋がるよう、佐藤さんは色々な角度にアンテナを張り巡らし、自分だけではなく、これからの日本の食料問題や環境面での貢献も忘れていない。

ここ湘南では、消費者と生産者の距離が近いという。その利点を最大限利用し、地域だけに留まらず、湘南野菜の魅力を伝えていくこと、それが佐藤さんの目標だ。

湘南は日中と夜間の寒暖差があり、作物を育てるのに絶好の環境が整っている。

その土地で、自分に何ができるか、地域に貢献し、美味しい野菜の存在を広めていくのが自分の使命だと佐藤さんは言う。

昔から伝えられる百姓仕事

「農家は昔、百姓と呼ばれていました。百姓の姓は、仕事のことを表していて、百の仕事ができるのが、本来の百姓。名前の通り、農作物はもちろん、その畑も田んぼも作業道具も、家でさえも自分たちで作っていたんです。農作物を育てる上での必要なことすべてをこなしていた。今ではいくつかの作業を機械が代わりにやってくれるケースもあります。それと引き換えに、現代においてはSNS運営とかWEBサイト作りが、いわゆる百姓のそれにあたると思うんです」 

土から生まれ、土に還っていく命

「人間は土から離れては生きていけないんです。食べることをやめたら死んでしまうから。

命の源流としての、農業。食べたものはやがて命に代わっていきます。だからこそ、いいかげんな仕事はできないし、より求められて安全なものを作ることが大事です。そしてそれを次の世代にも受け継いでいくこと。自分たちの仕事は、生きていくうえでかけがえのないものだという責任を持ち、今後も伝統を守りつつ、色々な事にチャレンジしていきたいです」

INTERVIEW:Daisuke Udagawa(M-3)
TEXT: Yumiko Fukuda(M-3)
PHOTO:Fumihiko Ikemoto

佐藤智哉

http://www.satonouen.jp/

湘南佐藤農園〜土作りからこだわった湘南の野菜〜
神奈川県藤沢市亀井野2818-3
TEL 0466-53-8074
FAX 0466-53-8140
@shonan_sato_nouen

佐藤智哉 1979年生まれ、神奈川県藤沢市出身。大学を卒業後、営業職などに就く。2014年、結婚を機に佐藤農園を継ぐ。湘南の若い世代の新しい農業家兼、実業家として注目を集めている。
藤沢市認定農業者
藤沢市援農ボランティア育成講座講師
農地利用最適化推進員

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