JOURNAL

TERUYUKI MIZUNUMA

後編

大切なことは、直接触れ合って伝えていくこと

世界的にも珍しい、木型と帽子製造を一人で完結できる帽子職人、水沼輝之。前編では脱サラして学校を出て工場で下積みした時代を、後編では自身が展開する2つのブランドとそのクリエイションに触れる。

物の価値を直接伝えることを大切にする2つのブランド

水沼さんは、WABISABISM(ワビサビズム)とhatfusion(ハットフュージョン)の2ブランドを展開している。

WABISABISMは木型を掘り出す~デザイン~全て自分で完結するブランド。同じような形が多い日本市場の中で、他とは一線を画す形にこだわったこだわりの商品群だ。

一方、hatfusionは世の中の波長が合う色んな職人と一緒に物作りをするブランド。水沼さんが企画・デザインを行い、そこからカタチ付けられる工程で気の合う職人が参加する。まさにhatfusion(帽子の融合)という言葉が合う。

「僕、建築業界出身ってお話したと思うんですけど某大手ハウスメーカーの工場で勤務していたんです。家のあらゆる部分をユニット化して組み立てる住宅を作るところで、パーツ製造工場みたいな感じだったので道具の使い方など木工のイロハはそこで覚えました。学生時代から工業高校で、卒業してから物作りの世界に入りたいとずっと思っていたので木型を掘ることも違和感なく始められたっていうか」

他の人に出来ないフォルムという点でいうと、こちらの作品は他では見たことがないだろう。どうしても質感的に固いイメージを持っているハットをニットのビーニーに見立ててデザインを起こした作品と、がさばるという部分を払拭した折り畳めて革紐で括れるソフトな質感の作品だ。

「製作技術を受け継ぎたいとか、教えてほしいって声は時々ですがあるんですよ。でも時間をかけて修行して取得してきたものなので簡単にコピーしてほしくないという気持ちもあります。

以前地方から若い子が帽子作りの現場を見たいと訪れてくれたことがあって。その為だけにですよ。直行直帰で地方に帰っていったあの子がもしまだ志を持って諦めていなかったらどこかで会って一緒に仕事が出来たらいいなと思ったりしますね」

百貨店で直接お客さんと触れ合いたい

「この時代になって、自分が作ったものを直接お客さんにお渡しして、そこからが付き合いのスタートだと思っているんですけど特に大切だなと思っていて。世の中の消費マインドも安いものをショートスパンで買い換えるというよりもいいものを永く使うという傾向に変わっている気がしています」

百貨店は自分とお客さんを繋ぐいわばハブの役割。水沼さんの創る作品は手間を惜しみなくかける分安い買い物ではない。だからこそポップアップという短い期間での催しに関しては販売員さんにお願いするというスタイルではなく、直接自分が説明するほうがしっかりと伝わると信じて売り場に立っている。

「汚れたらどうしたらいいですか、とか型崩れしたらどうしたらいいですか、など買った後にもお手入れをして安心して長く使っていってほしいので出来るだけ買ってくれた方とコミュニケーションを取るまでやって初めて自分のクラフトマンシップというものが見えてくるのかなと思っています」

 

TEXT:Mitsuaki Furugori(ORGAN CRAFT)
PHOTO:Fumihiko Ikemoto(PYRITE FILM)

水沼 輝之

http://shop.mizunumahat.com/

1978年生まれ栃木県出身、埼玉県在住。
工業高校卒業後、建築系の職業を経て、モノづくりを諦めきれず帽子職人の道を志す。
2001年、帽子作りの基礎を学ぶべく、専門学校「サロン・ド・シャポー学院」に入学。
卒業後、都内の帽子メーカーに就職。帽子の型入れ作業からミシン作業までの技術を学びながら、200以上のブランドの帽子製作を手掛ける。
2015年、独立し自身のブランド「WABISABISM」を立ち上げる。
現在は新宿伊勢丹など百貨店でのポップアップショップを中心に全国で活動中。

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