JOURNAL

YUKI ABE

後編

これから仲間たちと一緒に
「場所」を作りたい

ビッグメゾンのショップや商業施設から個人店まで、精力的に店舗内装を手がける阿部さん。インタビュー後半は、クラフトマンシップと職人としての喜びについて、うかがいます。

ドMじゃないといい職人にはなれない

職人といっても、住宅、オフィス、店舗と幅広く扱うORGAN CRAFTと違い、阿部さんの専門は店舗。「優樹が店舗にこだわる理由ってある?」と渡會。

「住宅が日常だとしたら、店舗って非日常の空間だと思う。非日常っていうのは、もしかするとファッションショーと通じる部分かもしれないなって。ファッションの世界に憧れたことが今に繋がっているとしたら、そこかも」

特にアパレルや飲食店は、特殊な什器や家具が入ったり、タイルや床材から特別なものを探すような、難しい依頼も多いそう。

「相手のイメージを聞いて、イチからアイデアを提案したり。そういうやりとりも面白いです。逆に『こんな店にしたい』って見せてもらう写真が、自分がやった店だったり。1回、軽トラをデコったこともあって、あれは楽しかったな。やったことないことができるのは、店舗の面白いところかもしれないです。それに比べると、住宅はある程度仕様が決まっている面が多いのかなって」

「俺たちは、それを変えようとしてて」と渡會が続ける。「住宅の内装ってやっぱりどこか固定概念みたいなものもあって。いわゆる普通のフローリングの部屋みたいな。でもORGAN CRAFTは、そのルールにとらわれずにどうやって理想の住宅を作るかを大切にしてる」。その言葉に、阿部さんは目を輝かせる。

「固定概念を取り払ってくと、その分考えることも増えるし手間もかかるんだよね。デザインや製図も複雑になるし、現場の職人も大変。図面見て、『これどうやって作んの!?』みたいな。でも、その面倒臭さが仕事の醍醐味なんだよね」

職人としての苦労を語る阿部さんは、すごく嬉しそう。

「ドMじゃないと、いい職人にはなれないと思う。できない理由を並べるより、どうやればできるかを考える。『こんなのやったことねえよ!』って言いながら、ワクワクしてる自分がいるんですよね。この無茶振りを、どうクリアしようかって」

何よりも、相手が喜んでくれるものを作りたい

阿部さんにとってクラフトマンとしての喜びって、何だろう。

「フローリングがバチっとハマったときとか。通り芯の墨出して、両サイドが完璧な寸法でキマったら、勝った!みたいな、ははは。そういう快感はありますね」

「定尺を足したり、幅木で逃げたりね。すごくよくわかる。じゃあ、優樹が一番大切にしてることってある?」。渡會の言葉に、阿部さんは少し考えこむ。

「なんだろう……でも一番大切なのは、やっぱりお客さんが喜んでくれること。そのためには、地味な作業とか細かい仕上げが大切だし、特に人の手が触れる場所はとことん丁寧に。同業者でもない限り、言われないと気づかない部分かもしれないけど」

見えない部分への細やかなこだわりと、難題を楽しみながらクリアするクリエイティビティ。阿部さんへのオファーが絶えない理由が少しわかった気がした。

「アパレルさんも色々やらせて頂いて、それが経験として積もり積もって。お客さんに面白いものが提案できるストックは出来たかなって。だから、どんどん楽しくなってきた感じです、今」

最後に、これからの目標は?

「設計から全部やっていきたいです。ゼロからお客さんと一緒に店を作っていくような。今よりもっと何でも自分でできるようになって、仲間たちと一緒に場所を作りたいんですよね」

さっきまで「現場監督も大工も全部ひとりでやるのが大変」って言っていたのに、と意地悪に返してみると「矛盾してますかね」と笑う。

「でも大変な分、できたときに喜んでもらえるし、そこをクリアしていくのが僕自身好きなんですよね。大変だけど、面白いんです」

後日、三軒茶屋の現場に行くと立ち飲み屋は完成していた。阿部さんのinstagramには「自分仕切りの中で過去最高の仕上がり」と、みんな楽しそうに酒を飲む様子がアップされていた。仲間たちが集まる、“いつもの場所”が、またひとつ東京の街に増えた。

 

優樹の仕事を間近で見るのは実は初めて。僕らも職方あがりの施工集団だから、優樹がやっていることの大変さややりがいが痛いほどよくわかる。お客様の思い描くスタイルに僕らのエゴをどうぶつけて行くか。優樹が言うように、僕たちで完結できる工事のレンジをどんどん拡げていきたい。そして、いつか僕らの遊び仲間の“何か”を一緒に作りたいなあと、本当に思う。

ORGAN CRAFT代表 渡會

 

Text & Edit:Masaya Yamawaka
Photo:Takeshi Uematsu

阿部 優樹

https://www.instagram.com/yuki.abe

現場監督~大工仕事までこなす内装大工。FROG HARDWARE CONSTRUCTION所属。
ファッションデザインの専門学校を卒業後、ファッションの演出などを学びイベント制作会社に入社。その後、とび職などを経て内装大工の世界に。有名メゾンのフラッグショップなど、数々の作品を手掛ける。休日の過ごし方は酒と友人とキャンプ。(instagramのプロフィールより)

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